デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」の一冊の内容です。
ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。
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春から夏にかけて、目の回る忙しさです!去年の夏、工房で働くようになった人たちの仕事を生み出すために、木版館で何か新しい提案をしようと考えていたので、少しは忙しくなるだろうと覚悟はしていました。でも、これほど滅茶苦茶に忙しくなるとは、思ってもいませんでした!
現在は、たくさんのことが同時進行しているので、全てについて詳細を説明する時間がありません。それでとりあえず、今号では簡単な「近況報告」をして、みなさんに大まかな経過を知っていただくことにします。詳しい説明が必要となる事柄については、次回に……。
どうか止めずに、読み進んでください。「日本の美術」シリーズの現況、工房の拡張(2倍の広さになります!)、デービッドが主人公の小旅行、そして極めつけは、今後何年にもわたって私たち全員に仕事を調達し続ける、大プロジェクト!
我が家の最下階にある工房の写真です。
ご覧になってお分かりのように、かなり窮屈になってきました。この狭い空間に、摺りの「持ち場」が3ヵ所と版画を包装したり紙を切ったりする作業台、加えて絵の具や用具を収納する大きな戸棚もあります。にもかかわらず、部屋の内装は完成にほど遠い状態です。天井の断熱材は剥き出しですし、ベニヤ板のままの床も見えます。
でも、写真にアコーディオンドアーがあることにお気づきですか?この反対側をちょっと覗いてみましょう!
見て下さい!使われていない空っぽの広い空間が、忙しく仕事をする人達で一杯になるのを待ちかねています。こんなことがあり得るでしょうか?一体この空間は何でしょう?
答えは簡単です。私の家を地上の道路に立って見ると、「独立している一軒家」のようですが、地下2階までの基礎は2件隣まで一体化しているのです。私のすぐ隣の石田家では、地下部分をまったく使用していません。その訳は、以前私の工房の様子をご説明したように、かなり慎重な断熱処理をしないと冬の冷え込みが強烈だからです。
そこで数ヵ月前、石田さんのご主人に地下2階部分を借りて、私の工房を拡張したい旨を話すと、快く同意してくれました。手頃な価格での賃貸約束が成立するとすぐに、李さんが2件を隔てていたブロック部分を重いハンマーでぶち抜いてくれました。
この記事を書いている現在、その部屋はまだ手つかずの状態ですが、みなさんが次回のニュースレターをお読みになる頃には、工事が始まっていることでしょう。最初はとりあえず、摺り用の持ち場を2ヵ所と、職員が集まって会議(食事も)のできる大きなテーブルをひとつ、それとコートなどの収納場所を作る予定です。
でも考えてみると、コート掛けなど要りませんね。12月までに断熱材が入らなければ、コートを脱ぐ人などいないでしょうから!
12年程前に、ここ青梅に越してきて以来、この地域に生息する野生動物を時折「目撃」するのを楽しんでいます。ここは、都会と田園の景観が程良くバランスを保っているので、何に出くわすかはまるで分からないのです。今年は、中でも例外的でした。もう「時折」などという状態ではなかったのです。面白い動物たちが窓の下を、それこそパレードしているかのようでした!なんとか撮影できた写真をご紹介しましょう。
この番(つがい)は、しょっちゅう見かけます。きっと僕よりも長い間ここに住んでいるのでしょう。僕がちょっとでも近づき過ぎると、すぐに飛び去ってしまいますが、バルコニーからパン屑を投げてやると態度が変わるんです……。
とても敏感な鳥なので、近づくのはまず不可能です。うまく観察できるのは、太陽光が窓に反射して僕が見えない状態になる、日中の窓越しです。この写真はウェブカム用に固定してあるカメラで撮ったもので、海外の人達もネット上で見る事ができました。
この鳥が大きな水しぶきを上げて水に飛び込む様子を、何とか撮影したいものですが、その瞬間を捉えるためには、投資よりも多くの努力が必要です。幸い1羽が窓の丁度向い側の土手に数分間じっと留まっていたので、ビデオで撮影することができました。
[イタチ] めったに見られません。とても臆病という訳ではなくて、川の反対岸という安全圏を歩いているのなら、数メートル以内まで寄ってきます!これはある晴れた日の昼下がりに、獲物を探して石から石へと跳んでいるところを、遠くから捉えた写真です。
特に変わった魚は泳いでいませんが、今年は例年より遥かに多いです。中には20センチほどの長さにまで成長していて、こんな小さな川なのにと感心してしまいます。でも、これ以上大きくなると生存に支障を来すでしょう。なぜなら、近所の人達が釣りをしようなんて話しているのを、小耳に挟んだからです!
そんな訳で、しょっちゅう仕事に集中できなくなります。さあて、舞台の袖にはどんな訪問者達が待ち構えているのでしょう!
この新シリーズは最初の3作が完成して、収集家の方々に送られています。この企画に共通の様式についてはもうお分かりになったことでしょう。つまり、共通の様式などない、ということです!あちこち失踪しながら、1つの場所に留まる事なく、世紀を股にかけて旅をします。
このシリーズには浮世絵がないのか、と心配している方がいらっしゃるかも知れません。まだ入っていませんが、どうかご心配なく。私たちは、浮世絵の時代にも当然行きますし、終わるまでには何回か登場することでしょう。私の作品を長期に収集しておられる方はお分かりでしょうが、伝統木版画はとても幅の広い世界です。浮世絵といえば誰でも、遊女や役者の絵ばかりを思い浮かべることでしょうが、実際は違います。多くの方々にこの間違いを知らせること、これは私の使命だと思っています。実際、このような企画を考えた動機の1つが、人々の意識の中にある「伝統木版画=浮世絵」という方程式を消し去る一助となりたいと言う思いなのです。浮世絵というのは、この「技法」で作り出される絵の中の1様式に過ぎません。
この記事を書いている今、4枚目の作品は決まっていません。候補となる作品のリストは限りなくあって、たくさんの候補の中から選べばいいのですが。以下に、このシリーズに関することを書き連ねてみます。
作品をご覧になってお分かりのように、どの版画にも品の良い筆使いで題が書かれています。前回の「美の謎」シリーズ同様、長年の収集家であり私の大切な友人でもある田内陽子さんが、書いてくださっています。私は、「明日彫りたいので……」などという駆け込みのお願いばかりしていますが、田内さんは文句も言わずに、必ず何種類かの書をしたため、中から選べるようにしてくれます。田内さんには、心から感謝です。
前回のニュースレターで書きましたが、収納用の桐箱は私の工房で手作りしています。前回の「美の謎」の時は木工細工を専門にする工房に注文したのですが、今回は自分で取り組みました。当然ながら品質は前回に及ばず、複雑な気持からは逃れられません。経験の浅いアマチュアの木版画を見るといつも気付くのですが、1枚毎に違いがあって、いかにも「自家製」です。私に言わせれば、200枚の版画を摺ったら、どれもまったく同じであるべき。今回作った木箱も幾分「自家製」に見えるので、私の「素人」度合いは歴然ですね。
でも、いつだって自家製料理の方が美味しいですよね?
今回のニュースレターの、何よりも一番重要な記事です。「浮世絵ヒーロー」という言葉は、これからしばらく登場し続けることでしょう。現時点では、この紙面で全てを説明する余地も時間もないのですが、とりあえず手短かに要点をお伝えすれば十分だと思います。次号でもっと詳しい説明をすることになるのは、間違いなしですから!
では、かいつまんでご説明を……。このニュースレターを長年購読しておられる方ならご存知でしょうが、新事業として始めた木版館で、私が現代作家の絵を作品にすることをずっと願っていました。実際、5〜6年前に外国の友人が画いた絵を2作と、昨年に若い日本の女性の絵を千社札にして2セットを制作しています。あいにくどの作品も、制作費用を取り戻すには至っていませんが、そんなことはどうでもいいことです。私は仕事を生み出し、日本伝統木版画の制作方式は、ほんの少しでも未来に向かって前進したのですから。
そしてこの2ヶ月程は、もう1つ別の企画に深く関わっています。この場合は、デザイナーからの強い要請が事の始まりでした。彼はジェッド・ヘンリーという若手のイラストレーターで、彼が強く興味を持つ2つの世界を組み合わせて、版画シリーズを創作する、という思いつきです。現代のビデオゲームに登場する ― 世界中の人達に知られ、愛されている — 人気キャラクターを、日本の伝統浮世絵手法でパロディー化するというのです。このようなイラストレーションは「見立て絵」として知られているもので、日本では古くから用いられている手法です。
私が初めてこの要請を受けたとき、彼が作ろうとしている版画は大判サイズで、かなり大きかったので、自分の手に負えないと思いました。それで、別の工房を紹介したのです。でもその後、何度か意見のやり取りをしているうちに、私の工房にいる摺師見習い達と協力すれば、いくつかの作品は作れるだろうと判断したのです。そこで、とりあえず1作品を版木に彫り、何種類か試し摺りをしました。それを知人達に見せると、かなり良い反応が帰ってきたのです。ジェッドがこのことを、新企画を考えた人がそれを支持する「サポーター」を募るインターネットサイトに書き込むと、事は雪だるま式に運んでいきました。今この記事を書いている現在も支持者が増える一方なので、多すぎる予約に対応するため、ジェッドと私はものすごい数の版画を作ることになるでしょう。
ここにご紹介しているのは、最初に作った版画です。8月の終わりまでは、ジェッドの企画ページからしか注文できませんが、軌道に乗った後は、私達が作ってゆく作品を紹介するホームページをジェッドが立ち上げることになるでしょう。
浮世絵ヒーローは、「木版館のヒーロー」とも言える後援者です!
これは、版画制作と関係のない記事ですが、事の起こりには結びつきがあるので……。
夏に入ってまもなく、NHKのプロデューサーから、計画中の番組への依頼を伝える電子メールが届きました。返事を出すと、若い女性プロデュ―サーが企画内容を説明するために訪ねてきたのです。ある旅行ドキュメンタリーのホスト役に相応しい人物をネット上で探していると、私が「自然の中に心を遊ばせて」シリーズを制作している頃のページに行き当たったとのこと。目を止めた彼女は、私を候補として考えたそうです。
なぜなら、ドキュメンタリー番組の予定地が、何年か前に世界遺産に登録された白神山地だったからです。番組に、私のキャンプ経験を発揮させる場面はなかったのですが(そもそも許可されませんから)、私がたくさんの木材を使う仕事をしているという関連性から、この役目を果たせるだろうと考えたそうです。
手短かに説明すると、私は彼女の申し出を受け入れて、8月の始めに制作スタッフと共に、この森とその周囲を探索する5日間の旅へと飛び立ちました。原生林を歩き、山間を流れる川で泳ぎ、漁師と共に近くの海から山並を眺め、毎晩違う旅館やホテルに宿泊しては御馳走でお腹を一杯にした、それは素晴らしい旅でした。
放映日は9月11日、海外向けがNHKワールドテレビ、その後国内ではBS1チャンネルになります。番組 - ‘Journeys in Japan’ - はNHKワールドのホームページでも、同日に数回見る事ができます。詳細は: http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/でご確認ください。
(露天風呂でのシーンはお見逃しなく。30年以上も熱心に摺りの作業をしていると、どれほど胸の筋肉がムキムキになるか、見物ですよ!)
その人は耳朶をいじっていた。人差し指の先で、前から後から。繰り返し打たれ、揺れ続ける耳朶は、まるでボクシングのパンチングボールのよう。私は、この女性の右後方に立って電車を待っていた。ピアスの穴もないふっくらした耳朶はやがて赤味を帯び始める。
なくて七癖、日常無意識にしている動作は誰にもあることだろう。私の父も耳朶いじりが激しかった。彼の場合は、人差し指と親指の第一関節でつまんで引っ張る。ある日、小さく切った絆創膏が耳朶に付いていた。「どうしたの?」幼かった私は勇気を出して聞いた。「いじりすぎて切れちゃったんだよ。」予想外の率直な答えに、私の方が気まずい思いをしてしまった。
中学校の教室で、右前方に艶やかな長い髪の級友が座っていた。授業中、すらりと伸びた美しい指がその髪の毛の間を流れるように通る。真っ白な指が漆黒の髪の毛の間を緩やかに流れていく。何てきれいなんだろうと見とれていた。ある時その左手の甲に傷があることに気付いた。美しい手に、あってはならない痛々しい傷跡が、癒えることなくそこにある。「どうしたの?」ある時、出来る限りさりげなく聞いてみると、自分で引っ掻いてしまうとのこと。どうしても引っ掻いてしまう。止める事ができないのだと答えが返ってきた。
私自身は、小学校の頃に鼻をクンクンとならす癖があった。何がきっかけでそんな癖がついてしまったのか、どうしても止められない。我慢していると呼吸ができなくなる苦しさで、「クン」と一気に空気を鼻から出す。ある日クラスの男の子に、「きたねえなあ!やめろよ〜!」となじられた。たまらなく恥ずかしかった。その日から試練が始まる。できるだけ我慢してクンの間隔を伸ばした。どのくらいの日数を要したのか覚えていない。だが、いつの間にかその癖は消えていた。
癖なんてあっても構わないものだと思うが、それが体を傷つけたり人に不快感を与えるのなら止めた方が良いだろう。私の長女は枕カバーの四隅をいじる癖があった。嫁いだ家を訪ねると、クッションカバーの四隅が擦り切れていた。だが、彼女に子供が授かってからは、どのカバーにもきちんと四隅が存在している。
えっ、ミスター版画家の癖?ご存知の方ご一報を!
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私の家族について最後にお知らせしたのは、かなり前です。バンクーバーに行ったのは、ほぼ1年前ですから、いつもなら、そろそろ行く計画を立てるのですが、今回はちょっと事情が変わりました。私の方から家族を訪ねるのではなく、向こうからやってきたのです!3人だけですが。
長女の日実が2人の息子を連れて、日本に住むおじいちゃんに会いにきています。アレックスはここで6才の誕生日を迎え、アンドレーは4才です。特別な計画などない夏休みですが、工房のすぐ下を流れる浅くて安全な小川があるので、遊びに事欠くことはありません!