デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」の一冊の内容です。
ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。
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「百人一緒」の春号です! 内容はいつもの様に、デービッド自身の企画と木版館、両方の活動報告です。
左に写真が2枚ありますが、高品質の木版画を制作したくて追求していましたら、ここまで来てしまいました! 現在手に入る道具に飽き足らずに、辿り着いた所です。詳しくは本文を!
他には、恒例の春の決算報告。続いて、昨年中の活動報告の中には新規に加わったスタッフの紹介があり、いつもの「貞子のコーナー」もあります。ではページをめくってください! 今号で一番大事なお知らせ、デービッドの新シリーズをご紹介します。
無駄な抵抗は止めて、すぐ予約!
前号では、新企画が「版画玉手箱」の第3シリーズになるだろう、という大まかな内容だけお伝えしました。現在は、構想がしっかり固まっていますので、正式にご説明できます。
作品は、前回の「美の謎」シリーズと同じ大きさの版画で、全18作の構成です。ちょっと前にサイトの方で以下のような説明文を掲載しました。
「前シリーズ『美の謎』では、伝統木版画をご紹介しながら、それ自体の歴史を探求してきました。今回は、日本の美術全般という、より広い領域を版画を通じて見てゆきたいと思います。長期にわたって育まれ継承されてきた、これほど豊かで創造性のある文化が、この地球上にどれほどあるでしょうか!この島国に住む人々は、描写し…、彫刻し…、画き…、切削加工をし…、鋳造し…、糸を紡ぎ…、と計り知れない数の技術を用いて千年を優に越える年月の間、優れた美術品を創造し続けました。何世紀にもわたって築かれた遺産は膨大なものですから、何から手を付けてよいのやら! でも、始めますよ!」
作品の制作予定としては、今まで毎月1作品と申してきましたが、前シリーズを収集された方がご存知のように、それほど単純には事が運びません。作品によっては、色の数が少なく比較的単純な場合もありますが、かなり複雑で制作に時間のかかることもあります。それで今回は、作品をお送りする間隔は4〜6週間とお伝えします。
今までのシリーズ同様、作品の内容について事前に公表することはありません。届いた包みを開いて初めてご対面という訳です。届いた作品は、次の作品が送られてくるまでの間、お部屋の決められた場所で皆様の目を楽しませてくれます。
写真をご覧になるとお分かりになると思いますが、今回も展示と収納を兼ねた木製の箱が一緒です。(詳しくは次のページをご覧下さい) ほぼひと月毎に収集するこの企画は、作品1枚が3,500円という手頃な価格です。この作品集は、プレゼントとしてのご予約も承っております。ご指定の方に作品をお送りし、請求書は御予約なさった方に送らせて頂きます。
今は、この企画が継続する2年間をとても楽しみにしています。制作予定の版画は、私が得意とする繊細な作品ですから! みなさんも是非、この「旅」にご一緒しましょう!
私が24年前に「百人一首シリーズ」を始めた時から、決して譲れない方針がいくつかあります。その一つは、収集家の方たちに「版画だけ」を送る事はしない、と言う事です。作品が「主な魅力」だということはもちろん重々承知していますが、どのように渡されるか、保護されているか、ということも重要だと考えるのです。私自身、乱暴に扱われたために、保存年数からは考えられないほど痛んでしまっている作品をたくさん持っています。過去の(現在もなお)版元のほとんどが、貧相な材料で版画を包装しているのは、まるで長持ちしないことを保障しているかのようです。
ですから私は、最初から自分の制作した版画ができるだけ長持ちすると確信できるように努力してきました。そのためにかなりの費用を要してもです。専用の保存ケースですから、時折新鮮な空気を入れてさえもらえれば、かなり長期間の保存に耐えるのです。
「版画玉手箱」の入れ物は、このような方針に基づいて保存ができるのみならず、展示できるという利点も加わっています。7年ほど前に制作した最初の「版画玉手箱」のケースは、私がデザインをして中国で作ってもらいましたが、「美の謎」シリーズの時には(やはり私がデザインをしました)、小田原のある「からくり」工房に製造をお願いしました。そして今シリーズ用には、より高い品質を望んでいるため、自分の工房で制作しています。
1日は、どう足掻いても24時間だけですから、全行程を自分でしようなどとは考えていません。この仕事のために、助手として李泰浩君に来てもらっています。彼は、版画の摺に興味のある若者ですが、桐材から美しい版画保存箱を造り出す作業に、快く協力してくれることになったのです。
今回のシリーズに関しても、箱のデザインは私が手がけました。李さんと私は、製造工程の準備として数週間を費やし、このニュースレターを書いている現在は、その作業がほぼ終了しています。必要なジグや用具はほとんど自分たちで作り、みなさんがこの記事を読む頃には実際の製造が始まっているはずです。
外部の製造業者に委託すれば遥かに手間がはぶけ、しかも、中国ならばずっと安上がりだったはずですが、版画制作にかける私の時間と努力、そして、どれほど長い期間この版画が存続するか(優に200年)を考えると、収納用の箱にかける労力は十分に報われると思います。
同感でしょ?
木版画制作に必要な道具は、ほとんどが長年使用できるのですが、彫りに使う彫刻刀の刃は非常に消耗が激しいので、プロの彫師は頻繁に替刃を購入します。私も佐藤典久君(木版館の仕事に協力してくれている若い彫師です)も同じ状況にあるので、この分野における職人仕事の質の低下を深刻に考えていました。受け取る彫刻刀の刃はだんだん質が落ちていて、最近では使用可能な刃と使い物にならない刃との割合がほぼ同じになっているほどです。
私自身は、これが現実なら「仕方ない」と諦めていたのですが、佐藤君は品質の良い刃を粘り強く探し続けていました。そしてついに、次の条件を満たす鍛冶を探し出したのです。1)他所はどうあれ、自分の作る物の品質は低下させない。2)特殊な用途向けの鋼であっても、客の要求を満たそうとする。訪ねてみると、とても小さな工房でした。良い材料を使い、手間をかけて作るので、必然的に商品は他よりも価格が高くなるため、最近はあまり商売が好調ではありません。
この鍛冶と佐藤君は、意気投合しました。鍛冶の方では、話が通じて刃の善し悪しが分かる客(になりそうな人)が、商品の価値を認めてそれ相応の金額を払うというのですから。早速サンプルを作ってもらい、佐藤君が私のもとに届けてくれました。
私はとても感動しました。刃先は鋭く、しかも、すぐに欠けてしまうようなことがないのです。「鋭い」刃先は、すぐに欠けてしまうのが常ですが。加えて、砥石を必要とするまでの使用間隔が長かったのです。これは少しも不思議なことではなく、神秘的なことでもありません。ある特殊な鋼を作る時には、どのくらいの炭素を鉄に含ませればいいか、適切な量は長年知られていることです。その他の数えきれないほどの要素も同様です。ある目的の鋼を作るには、焼きなましの時の温度はしかじかで、どれくらいの時間保てば良いのか。また、どのくらい素早く(ゆっくり)冷やせばいいのか。その後も焼き戻しをし、叩いたり形成したりという工程が続きます。こういった事柄は、「秘法」などではありません。要求を満たす刃を作り出すために、正確に選択される知識で、これは知られている事実なのです。熟練した職人ならば誰でも「出来る」仕事です。でも、今日これを実行する職人は、ほとんどいません。
佐藤君が届けてくれたサンプルを使ってみると、私は今まで使っていた他の製造業者からの彫刻刀は受け入れ難くなり、二人は早速、この事実を発展させる手段を相談し始めました。自分たち用に調達したいこの刃を継続的に確保したいという思いは、雪だるま式に展開し、これを木版館でも扱うことになったのです。木版館では、今まで版画だけを販売してきましたが、大跳躍に踏み切って、木版館ブランド最初の道具となる彫刻刀を扱うことにしたのです。
まず鍛冶が、私たちの要求に合わせて鋼を作り、形成と研ぎをして私たちに届けます。このままでは、まだ使えません。柄の部分は、高品質の刃に釣り合うよう、私の工房で伝統的な形に製作します。道具というのは実利的な存在ではありますが、やはり美しくあって欲しいのです。
柄には山桜を使います。丈夫でしかも美しいからです。彫台の上に山桜の版木を置き、それと同じ材質の柄で作られた彫刻刀を握って彫っていく。たまらない境地です!
この彫刻刀セットは、手作りの桐箱(もちろん私たちの)に入れてお届けします。ケースの中の小さなポケットには、説明文が入っていて、彫刻刀に関する情報や背景、手入れ方法などが書かれています。蓋の内側にはラベルが貼ってあり、製作者、製作の日付、御使用になる方の名前、シリアル番号が書かれています。
以上が彫刻刀の誕生物語です。この鍛冶を見付けたのは幸運でした。ここで作られた刃を使って、美しい彫刻刀に仕立て、世界中の方々に提供します。この彫刻刀にはとても誇りを持っていますし、プロの彫師である自分たちも毎日こればかり使っています。皆様も是非ひとつ、お手元に置かれることをお勧めします! 販売への準備は最終段階にあり、ホームページからの注文はもうすぐ受付開始です!
春号なので、いつものように「企業の年頭教書報告」をします。いつもですと、自分が取り上げられた様々な記事などのご紹介や展示会の報告をし、それから会計報告となります。でも今回のこのコーナーは、かなり短くなります。昨年は展示会をしませんでしたし、メディアからは完全に無視されてしまいました。(「日本的なことをする外国人」というステレオタイプの話題は、もう陳腐になってしまったのです!)
でも、3番目の報告はなくなりません。昨年中は、新企業を立ち上げてたくさんのことが進行していますから、面白い結果が見られます。本題に直行しましょう。昨年は赤字? それとも黒字?
両方です! 私自身が制作した作品の定期購入者には、1,670枚の作品を発送し、かなり良い数値を示しています。
一方、木版館事業の方は、かなり困難な状態です。販売したのは、版画が236枚と電子書籍が267冊なので、結果は次のようになります。
結果はすべて、1年前にこのコーナーで書いた私の計画通りになっています。私の作品の予約販売が順調にいけば、その収益を木版館事業の方に使うつもりでした。
計画の最初の段階(投資)は、順調です。私が費やした約200万円はほとんど、私と共に様々な新企画のために働いた若者たちに支払いました。これからの1年間は、次の段階に繋がっていくことが望まれます。それは、収益を得るということです!
事がなかなか順調に運ばない理由はふたつあります。1つ目は、新規事業には初期投資としての費用が短期間に必要となること、そして、全てがうまっくいっても、確実な収入はゆっくりと長期に渡って続くということです。企業設立には、親しい銀行員の友達がいなくてはなりませんが、私の身近にはそのような人がいません。資金源はすべて私の懐から出るのです。
この事情が2つ目の理由に繋がって行きます。私の版画の予約販売による収入が、ほぼ全ての資金源であるため、こちらの実績が良いことが必須です。ところが、私は木版館のスタッフと多大な時間を費やしているので、自分自身の制作はどんどん遅れていくばかりで、予約販売による収入がなかなか入らないのです。美の謎シリーズの最後の作品を発送したのは1月ですが、新しい「日本の美術」シリーズは4月の半ば(末)にならないと出来上がりません。2月と3月の収入はほぼゼロでした。
でも愚痴はなしです! お話したように、これは全て計画通りの経過なのですから。未来は誰にも予測できません。意図した所に到達するかも知れませんが、別の所に行ってしまうかもしれません。また、完全な失敗に終わるかも知れません。でもとにかく、私たちは楽しくやっていますし、社会に何か価値を付加してもいますし、限りある材料のことも考慮しています。これ以上、何を要求できるでしょうか。
もしも、私たちの活動を支えてくださるお気持ちがありましたら、最善の方法は、現在の「日本の美術」シリーズを予約してくださることです。これが基礎となって、その他すべての計画が成立するのです。御協力に感謝します!
早春の楽しみは何といっても花の香り。庭から摘み取って生けておくと、家中のいたるところで、かすかな春の香りが楽しめる。寒さの中をこらえて、やっと咲いた花は、張りがあって生き生きしている。
こうして、ほとんど庭から調達する花で楽しむのだが、室内で越冬させている草花もある。そのひとつは、何年も育てているデンドロビウム。1年のほとんどは、見栄えのしない葉だけなのだが、3月になると白くて小さい可憐な花を咲かせる。
私は冬の間から待ちきれなくて、毎日この鉢を覗き込んでは蕾を探す。やっと蕾らしき物が葉の間に見えると、体中の血が駆け巡る。こんなに覗いたら、恥ずかしがって枯れてしまうのではないかと心配するほど覗き込む。
数週間してやっと、いくつもの蕾が膨らみ始めるのだが、まだ何も香らない。花がちょっと開いたくらいではまだ香らない。まだかまだかと鼻をくっつけるようにして催促する日が続く。そして諦めかけた頃、甘い香りが私にそっとまとわりつく。「ああこの香り!」そしてしばらく酔いしれる。
香りの最盛期はほんの数日だけ。愛らしい花は数週間楽しめるが、私はこの香りが忘れられず、残りの1年を再び鉢の手入れに費やす。
私は、贅沢にほど遠い暮らしをしていると思うが、安物の香りだけはご免被る。近頃は、体臭や家の臭いを消すと称して、「良い香り」を振りまく商品が大手を振って人々の生活のなかに侵入しているらしいが、いかがなものだろうか。私は家の臭いも人の臭いも嫌いではない。無臭である方がむしろ不自然だし、化学的香料なら、ない方がずっとましだと思っている。朝起きたら家中に風を通し、清潔な衣服を身に付けていれば、洗濯機の普及した現代生活に不快な臭いなどないだろうに、と思う。私たちは人間という生き物で、無味無臭のロボットではないのだもの。
先日、本屋の棚に並んだ文庫本のタイトルをざっと見ていると、「必要ないものを売る方法」といった風のタイトルを見付けた。これなんだなあと納得した。人工香料を販売することで生計を立てておられる方がいらしたら申し訳ないけれど、「あんた臭いわよ、嫌われるわよ!」と脅かすかのような宣伝を、私は好まない。
えっ、質問ですか? デービッドのニオイは、そのう、あのう、し〜らない!
Design Festa
前号のこのページで、5月にデザインフェスタに参加する旨をお知らせしました。詳細は次のようになります。
今回は、関香織さんと隣合わせのブースを確保しました。関さんは、昨年、木版館で販売した千社札のデザインをした女性です。現在は共同企画の案がまだありませんが、僕は期待しているんです。フェスティバルの間、彼女と共に語り合ううちに、何かいいアイデアが浮かぶかも知れませんから!
どうかフェスタに足を運んでみてください。まだ一度も行ったことのない方には特にお勧めします。デザインやパフォーマンスの入り交じった、熱気に満ちあふれる雰囲気が会場を包んでいます。私は今回も参加を楽しみにしています。
会場でお会いできますか?