デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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木版館の版画用具

木版画制作に必要な道具は、ほとんどが長年使用できるのですが、彫りに使う彫刻刀の刃は非常に消耗が激しいので、プロの彫師は頻繁に替刃を購入します。私も佐藤典久君(木版館の仕事に協力してくれている若い彫師です)も同じ状況にあるので、この分野における職人仕事の質の低下を深刻に考えていました。受け取る彫刻刀の刃はだんだん質が落ちていて、最近では使用可能な刃と使い物にならない刃との割合がほぼ同じになっているほどです。

私自身は、これが現実なら「仕方ない」と諦めていたのですが、佐藤君は品質の良い刃を粘り強く探し続けていました。そしてついに、次の条件を満たす鍛冶を探し出したのです。1)他所はどうあれ、自分の作る物の品質は低下させない。2)特殊な用途向けの鋼であっても、客の要求を満たそうとする。訪ねてみると、とても小さな工房でした。良い材料を使い、手間をかけて作るので、必然的に商品は他よりも価格が高くなるため、最近はあまり商売が好調ではありません。

この鍛冶と佐藤君は、意気投合しました。鍛冶の方では、話が通じて刃の善し悪しが分かる客(になりそうな人)が、商品の価値を認めてそれ相応の金額を払うというのですから。早速サンプルを作ってもらい、佐藤君が私のもとに届けてくれました。

私はとても感動しました。刃先は鋭く、しかも、すぐに欠けてしまうようなことがないのです。「鋭い」刃先は、すぐに欠けてしまうのが常ですが。加えて、砥石を必要とするまでの使用間隔が長かったのです。これは少しも不思議なことではなく、神秘的なことでもありません。ある特殊な鋼を作る時には、どのくらいの炭素を鉄に含ませればいいか、適切な量は長年知られていることです。その他の数えきれないほどの要素も同様です。ある目的の鋼を作るには、焼きなましの時の温度はしかじかで、どれくらいの時間保てば良いのか。また、どのくらい素早く(ゆっくり)冷やせばいいのか。その後も焼き戻しをし、叩いたり形成したりという工程が続きます。こういった事柄は、「秘法」などではありません。要求を満たす刃を作り出すために、正確に選択される知識で、これは知られている事実なのです。熟練した職人ならば誰でも「出来る」仕事です。でも、今日これを実行する職人は、ほとんどいません。

佐藤君が届けてくれたサンプルを使ってみると、私は今まで使っていた他の製造業者からの彫刻刀は受け入れ難くなり、二人は早速、この事実を発展させる手段を相談し始めました。自分たち用に調達したいこの刃を継続的に確保したいという思いは、雪だるま式に展開し、これを木版館でも扱うことになったのです。木版館では、今まで版画だけを販売してきましたが、大跳躍に踏み切って、木版館ブランド最初の道具となる彫刻刀を扱うことにしたのです。

まず鍛冶が、私たちの要求に合わせて鋼を作り、形成と研ぎをして私たちに届けます。このままでは、まだ使えません。柄の部分は、高品質の刃に釣り合うよう、私の工房で伝統的な形に製作します。道具というのは実利的な存在ではありますが、やはり美しくあって欲しいのです。

柄には山桜を使います。丈夫でしかも美しいからです。彫台の上に山桜の版木を置き、それと同じ材質の柄で作られた彫刻刀を握って彫っていく。たまらない境地です!

この彫刻刀セットは、手作りの桐箱(もちろん私たちの)に入れてお届けします。ケースの中の小さなポケットには、説明文が入っていて、彫刻刀に関する情報や背景、手入れ方法などが書かれています。蓋の内側にはラベルが貼ってあり、製作者、製作の日付、御使用になる方の名前、シリアル番号が書かれています。

以上が彫刻刀の誕生物語です。この鍛冶を見付けたのは幸運でした。ここで作られた刃を使って、美しい彫刻刀に仕立て、世界中の方々に提供します。この彫刻刀にはとても誇りを持っていますし、プロの彫師である自分たちも毎日こればかり使っています。皆様も是非ひとつ、お手元に置かれることをお勧めします! 販売への準備は最終段階にあり、ホームページからの注文はもうすぐ受付開始です!

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