デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」の一冊の内容です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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'Hyakunin Issho'
Newsletter for fans of David Bull's printmaking activities
Winter : 2005

下にある作品は、「版画玉手箱」の最後の6枚です。ぴったり計画通り完成しました!御陰で展示会までにたっぷり時間があり、ゆとりを感じることができます。

ところで、続いての企画は?この冊子をお読み下さい、新企画はひとつではなく、ふたつでもなく、3つあるのです!

他には、昨年中に取り上げられたメディア関連の記事や、いつも通り貞子のコーナーもあります。

そして、私の家族が増えたというニュース... 一体どんなことでしょう?さあ、読んでみてください!

2005年のメディアより

2005年は、雑誌に記事を書かれることがちらほら、そしてテレビ出演も数回ありました。ほどほどのバランスだったといえるでしょう。なぜなら、インタビューをされたり出演したりするのは面白いのですが、かなり時間を取られるので、そういった臨時の予定を入れる余地はあまりないからです。

では、ちょっとご紹介しましょう...

「東京生活」

昨年になってまもなく、東京生活のセンスアップを提唱する高級雑誌が、私の作品について記事を書くことになりました。豪華な食事や高級な商品、そして富裕層の住居などといった写真のすぐ近くに、自分の版画が掲載されるのは、ちょっと面白い経験でした。(彼らが、私の家に写真を撮りに来なくて良かった!)

抜粋「...だから氏の作品をはじめて前にした人のリアクションが、おおよそ同じになる。木版画、それは誰もが平面で認識している。しかし、デービッド氏が摺上げた伝統的な作品は、多様な色使いだけでなく、用紙である和紙も含んで巧妙に立体的に構成されていることが、見れば見るほどわかってくる。」


「科学技術ジャーナル」、5月号

この場合は、ちょっと他と違います。私についての記事が書かれたのではなく、私自身が書きました。ハイテク(先端技術)に関する機関誌が、ローテク(伝統技術)を使って仕事をしている私に、記事を依頼してきたのは驚きでした。でも、だからこそ面白い話題を考え付いたのです!

抜粋「機械を使えば済むものを、どうして手で彫ってゆくのか、そう思われる方もいらっしゃるでしょう。これに対する私の答えは、次のようになります。手作業をする時間は「無駄」になるのではなく、「使っている」のだと。


「デザイン」、夏号

これも、高級指向の雑誌です。信じられないほどの豪華誌で、超モダンな電車・電子製品・家具といった対象物を、超モダンに撮影した写真でいっぱいです。そして、一番後の方に私の木版画について4ページを詰め込んでありました!私のところへ訪ねて来て話を聞いたり、写真を撮ったりして記事を書いたのは、4人の若者たちでした。彼らは、私の作品を魅力的に紹介しようと、とても真剣で、その結果、今までに私の作品を紹介したどの写真よりもすぐれた記事になっていました。ページに現れた写真は、本物よりも遥かに素晴らしく見えたのです!(こういった雑誌は、たいていそんな風じゃないかと思うのですが)

抜粋「...正直、素人目には、Davidさんの技術はすでに神がかり的にすら見える。... 世間的に名を馳せたい、というような欲はない。彼はただ純粋に彫ることと、摺ることが好きなのだ。...木版画を制作中のDavidさんは、怖いくらいに真剣な表情になる。彫りの深い顔に深く刻まれた幾筋もの皺。顔にはその人の人生が表れるとはよくいうが、Davidさんの顔はまさにそうだ。顔自体が一つの彫刻作品のように見える。」

「ヤングサンデー」、2月

これについては、どう言えばよいのでしょうか?「デービッドさんについて、マンガを描きたいのですが...」と、電話での問い合わせがあったとき、ちょっと冗談を言っているのかと思いました。でも、そうではなく、担当の漫画家からのインタビューを受けてふた月ほどすると、この人気雑誌の10ページに、私のことが描かれていたのです。(シリーズとなっていたこのコーナーは、後に本となって出版されました。)話の内容は、人生についてなにか助言を得たいと思っている若者たちに、人生でもっとも幸せに感じるのは、自分の仕事を他のひとたちに楽しんでもらっているときだという、デービッドからのメッセージでした。


「お江戸粋いき」

ミニ番組にも出演しています。江戸時代に関連のある分野で仕事をしている職人を取り上げて紹介する5分間の番組です。私はぴったりでした!

内容は、このニュースレターをお読みのみなさんなら、もうすでにご存知の事がほとんどでしたが、正味2分ほどの解説の最後は、「世界に浮世絵の魅力を広めようっていう、青い目の木版画師、うれしいねえ」と締めくくられていて、ほのぼのとした気持ちになりました!

「お昼ですよ!」

昨年中に私を取りあげたメディアの、ハイライトです。NHKのお昼の時間帯の生放送に出演したのです。とても面白く、非現実的に感じられる経験でした!自分の番が来るのを舞台裏で待ち、自分の名前が呼ばれるとカーテンが上がり、会場の拍手と共に照明のもとに進み出る。これが、生で放送されたのです!プロデューサーによると、毎日、4百万くらいの家庭がこの番組を視聴しているとか... ギクッ!

日本語で話すのは得意ではありませんが、番組が進行してゆけば、それほど難しくはありません。要は、質問には手短かに答えて、聞いている人たちを飽きさせるようなだらだら解答はしないことです。

加えて、この番組の場合には、私が楽に話せる別の要因がありました。実演ができるように道具を会場に運んでありましたので、自分の刷毛やバレンが代わりに話をしてくれたのです!もちろん版画特有の問題もありました。紙も版木も程よい湿度に保っておかないときれいに摺れないのに、テレビスタジオという場所は、条件が良いとは言い難かったからです。

でも、なかなかうまくいって、ゲストのタレントさんが摺ってみると、彼でさえも上手にできたのです!

カメラの前では、お昼ご飯まで御馳走になり、みんな口を揃えて「おいしい!」。

テレビ出演をして、ちょっとスターになったような気分を「非現実的」と表現しましたが、放送が終わって駅に向かって歩く時の方が、もっと非現実的に感じられました。たくさんの人たちで混雑する通りを歩いていても、当然のことですが、まるで誰も私に関心を払わないのです。御陰で、妙に自慢げになることもなく、落ち着いていられました!

さて、来年がもたらすものは...まるで未知の世界です!

2006年の企画

2006年の主となる企画は、18世紀初期に江戸で活躍した、懐月堂安度の浮世絵です。肉筆の原画をもとに版画を制作、掛軸として表装いたします。安度は、絹地に着彩する肉筆画の作者として広く知られていますが、木版画用に画いた作品は残されていません。(まだ多色摺の版画がない時代でした。)また、彼の画く女性は、息を飲むほど美しい立ち姿で、とても豪華な衣装を身につけていることが多く、非常に存在感があります。一度目にしたら忘れられないほど、強い印象を与えます。

ここにある画像は肉筆のもので、手持ちの写真をスキャンしています(本物はヨーロッパの美術館にあります)。版画として制作するためには、これを拡大した絵を土台にして、筆でアウトラインをなぞってゆきます。これは、江戸時代とほぼ同じ手法です。

長い摺の行程が終了すると、ごく薄い層からなる和紙の、一番後にある部分を引き剥がしてより薄い状態にします。それから、その完成品を掛軸として表装してもらいます。(この行程はプロに任せます)そうしてやっと、予約して(辛抱強く)一年間待っていてくださる方々の手元にお届けすることになります。

ところで、「1年間待って...」と書きましたが、もしも私に1年間生活していけるだけの蓄えがあれば、こんなお願いをしなくても済むのですが、そうはいかないのです。それで、3ヶ月毎に制作の進行状況を、写真入りでご説明することにいたします。そして、私が生活していけるよう、報告を受け取る都度、4分の1ずつをお支払いいただきますようお願い致します。最後の報告は、12月の初め頃の予定で、このとき一緒に、完成した掛軸をお送り致します。きちんと表装して、すぐに飾っていただける状態です。

「掛軸」の価格は50,000円です。(国内にお住まいの方には、5%の消費税が加算されます。)

今回の企画に選んだ原画を初めて見たのは、ずいぶん以前のことでした。自分の技量を遥かに超えた作品であるにもかかわらず、いつか木版画として甦らせてみせる、と心に念じたことを思い出します。それ以来、この絵のことは常に頭の片隅にあって、自分でカラーコピーしたものをじっくり見つめては、細部を観察してきました。そして、「摺物アルバム」の第5集を終えたとき、実際にこの版画を制作することを考え始めたのですが、時期尚早と見送ることにしたのです。

そして、今なら技量が備わっていると言えるのでしょうか?正直なところ、確信があるとは言い切れません。でも、これ以上先に伸ばしてしまうと、時を逸すると考えたのです。これは大きな作品で、かなりの体力を要します。私は現在54歳、技術的にはもっと熟練してゆくでしょうが、もっと体力が増すとは思いません。そんな意味で、この企画に挑戦する絶好の時だと考えました。

「版画小品集」

2005年の企画だった「版画玉手箱」は、今までのどの作品集よりも多くの方に購入していただきました。海外でも日本でも、収集家の方たちは、様々な絵を上手に組み入れてあってなかなか着想が良い、と思ってくださったようです。そして、「もう一度やってくださいよ」という声が多いのですが、これほど労力の要る企画は、とても2年続けることはできません。でも、お客さまの要望に答えようと2006年には、大きな掛軸を作るだけでなく、小さな作品集も加えることにしました。

「版画小品集」は、葉書サイズの版画です。2月末頃から毎月1枚ずつお送りして、1年で全10枚をお集め頂くことになります。ケースは、どこにでも手軽に置いてお楽しみいただける、収納付きの額になっています。表が額になっていますが、上の開きから見終わった作品を中にしまうことができます。また、保存しやすいよう本棚にすっぽり収められる大きさです。このケースは、最初の作品と一緒にお送りいたします。

今回は、1990年から1999年までの間、新年のプレゼントとして制作した作品なので、保存してある版木を用いて摺ることになります。毎年お世話になった方々や、収集家の方々のために心を込めて考え彫った作品です。題材は干支に関係がなく、新年に相応しい絵となっていますので、幾分季節が寒い時期に合うようになっておりますが、全般的にはいつでもお楽しみいただける作品集です。価格は、1枚 2,000円とかなりお手頃になっておりますので、版画にあまり馴染みのない方たちがお試しになるのにも、良いでしょう。毎月美しい版画がお手元に届きますので、飾って楽しんでいただければと存じます。

以上が、2006年に予定している制作予定の大筋です。例によって、また忙しくなることでしょうが、ひとつだけ確かなことがあります。それは、挑戦の時だということです。手際よく仕上げるというだけでなく、非常に特別な作品を創り出す能力に挑みます。どうか、今年の企画のどちらか(あるいは両方)に、興味を持っていただけますように...

「A Story A Week」

これまでのページで、2006年の間に私が版画に懸ける、今年の2つの企画についてご紹介してきました。もうひとつ、ちょっと趣向の違う企画をご紹介しましょう。この企画、実際にはそう変わってもいないのかもしれません。今まで、収集家の方たちから、毎回の版画に添えるエッセイを、版画と同じくらい楽しんでくださっているという声をたくさん聞いてきました。また、今までにいろいろなところに書いてきているのですが、いつも読者の方たちに好評だったのです。それで、バレンだけでなくペンも握って、こちらの可能性も試してみようと考えました。

元旦から、毎週1話を「 A Story A Week」と名付けたインターネットのサイトに、休まず掲載してゆきます。話は英語で書きますが、ちょっとした助けになるよう、分りにくそうな単語を日本語で説明してあり、同じ文章を私が読んだ声を聞くこともできます。初級者用の英語では書きませんが、率直で分り易い文章ですから、比較的楽に読むことができると思います。話の内容は、木版画に関することではなく、毎回机に向かったときに思いつくことになります。

もしもパソコンがあってインターネットに接続することができるのならば、ぜひ開いて読んでみてください!

ファミリーニュース

昨年中は、このニュースレターに、家族について折々に書いてきました。前回の展示会には、両親と弟が駆けつけてくれましたし、短期間でしたが、夏には私がバンクーバーに行きました。ですから最近は、お互いがかなり身近な存在に感じています!

でも、家族の中にひとりだけ、もう3年近くも私をかわしている者がいるのです...それは、長女の日実です。彼女は、カリブ海でクルーズをする船で仕事をしているので、勤務期間の融通がきかず、私達の予定が、うまくかみ合うようにすることができないのです。でも、今年はちょっと話が違っています。今年の夏に皆が一緒になる日まで決まっているのです。一体どこで?ルーマニア、彼女の夫の出身地です。

「夫」?そうなんです、みなさんの読み間違えではありません。私の可愛い日実ちゃんは、クルーズで一緒に仕事をしている青年イヨアンと、11月に結婚をしました。私がこのことを知ったのは、その2日前でしたから、立ち会うことができませんでした(ふたりとも勤務がなく、陸にいられるチャンスに届け出をしたのです)。でも、一緒にいた私の両親から経過を聞く事ができました。

ふたりが送ってくれたこの写真と、2回ほどの電話で得たことだけが手がかりですが、どうやら分別のある青年のようです。(どう書いたらよいのか、ちょっと困惑している心情が分っていただけるでしょうか?)今年の夏に(遅ればせながら)挙式をするので、その時に彼とその家族に会うのを楽しみにしています。当の本人たちは、すでにカリブ海のクルーズに出発しています。彼らはハネムーンと思っているのかどうか!

私は、まだ東欧に行ったことがないので、今年の夏に行くと、目新しい事にたくさん出会えることでしょう。予定がうまくゆけば、行く途中でドイツにいる弟を訪ねることができるかも知れません。私たちのような家族は、航空会社の良いお得意さんでしょうね!

自家発熱

私は冬になると「タケノコさん」になる。毎朝、寝床の中で目をさますと、手を伸ばしてカーテンを開き、ガラス越しにその日の天気と気温を確かめ、体調を加味して身に付ける下着の状態をきめる。ランニング、半袖シャツ、七部袖シャツ、腹巻き、.... 笑ってはいけない。これは厳粛な一日の始まりで、健康を維持するため慎重に行う儀式、とも言える時間なのだから。

近頃は、薄くて暖かい様々な上等物が出回っているが、私はやはり木綿が好きである。取り扱いに面倒がなく、一日身につけたらぽいと洗濯機に放り込んでガラガラと洗えるところが最高なのだ。御陰で、だんだん冬の日常着はダボダボ衣装になってきたが、「おばさん」だもの仕方ない。用足しをする度にちょっと面倒で、目をつぶって「我が輩はタケノコである」と笑い飛ばすことにしている。

だが時折、ふと昔のことを思い出す。新陳代謝が盛んで、体内からいくらでも熱が発散していた、ぴちぴちの頃である。もちろん薄着であった。父が、厚着をすると弱虫になるからと、冬でも下着を重ねるようなことさせなかった。学生の頃も、制服の下はスリップ1枚で平気であった。それが、なんたる体たらく... 

ところが先日、目から鱗の画像を見てしまった。たまたまデービッドと一緒にこたつに入っている時に見つけたショートビデオなのだが、南米のピッチピッチのお姉ちゃんたちがサンバを踊っている。胸もお尻もプリリンプリリン...。そこで私は閃いた。こんなに場所のいらない運動はなかなかあるものじゃない!その夜、ひっそりと真似をしてみると、やっぱり暑くなる、すぐに暑くなる。だから、寒くなったら、これがいい。最高の燃焼運動である。問題は、側に人がいるときにできない点だが。

その夜遅く、いつものようにインターネットを使っての無料通話の折、このことを自慢げに話してみた。「デービッドはいくら寒くなってもサンバを踊れないだろ〜!」とけしかけてみたのである。すると、すぐに答えが帰ってきた。咳払いをして自慢げに「僕はそんな努力しなくたって、ちゃんとやってるさ。1分間に何千回のバイブレーションだよ。ガタガタガタガタってね。」

参った参った!ちなみに、デービッド君は下シャツというものをお持ちでない。青梅の真冬でも、2枚の服でお過ごしになる。想像するだけで、ブルブルッ! Bull buuu-ll buuuu-ruru!

展示会場の壁面は、きっとたくさんの版画でいっぱいになることでしょう!今まで、1年間に制作した版画の数は、最高で10枚ですが、今回は24枚ですから、かなり展示方法を工夫しなくては収まらないでしょう!

すべての作品を一望するのが楽しみです。「版画玉手箱」のケースは、とても良くできていたのですが、一度に1枚しか見ることができませんから。24枚全部を並べたら、きっと壮観なことでしょう。

昨年同様、会場設定は開催当日の日曜日の朝ですから、とても大忙しになります。時間が非常に短く限られているのです。お手伝いをお願いできる方がいらっしゃいましたら、ぜひ連絡をお願いします。去年は、弟と両親が助けてくれたのですが、今年はいないのです!

では、確認のためにもう一度、展示会の予定をお知らせいたします。会場でお会いしましょう!