デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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2006年の企画

2006年の主となる企画は、18世紀初期に江戸で活躍した、懐月堂安度の浮世絵です。肉筆の原画をもとに版画を制作、掛軸として表装いたします。安度は、絹地に着彩する肉筆画の作者として広く知られていますが、木版画用に画いた作品は残されていません。(まだ多色摺の版画がない時代でした。)また、彼の画く女性は、息を飲むほど美しい立ち姿で、とても豪華な衣装を身につけていることが多く、非常に存在感があります。一度目にしたら忘れられないほど、強い印象を与えます。

ここにある画像は肉筆のもので、手持ちの写真をスキャンしています(本物はヨーロッパの美術館にあります)。版画として制作するためには、これを拡大した絵を土台にして、筆でアウトラインをなぞってゆきます。これは、江戸時代とほぼ同じ手法です。

長い摺の行程が終了すると、ごく薄い層からなる和紙の、一番後にある部分を引き剥がしてより薄い状態にします。それから、その完成品を掛軸として表装してもらいます。(この行程はプロに任せます)そうしてやっと、予約して(辛抱強く)一年間待っていてくださる方々の手元にお届けすることになります。

ところで、「1年間待って...」と書きましたが、もしも私に1年間生活していけるだけの蓄えがあれば、こんなお願いをしなくても済むのですが、そうはいかないのです。それで、3ヶ月毎に制作の進行状況を、写真入りでご説明することにいたします。そして、私が生活していけるよう、報告を受け取る都度、4分の1ずつをお支払いいただきますようお願い致します。最後の報告は、12月の初め頃の予定で、このとき一緒に、完成した掛軸をお送り致します。きちんと表装して、すぐに飾っていただける状態です。

「掛軸」の価格は50,000円です。(国内にお住まいの方には、5%の消費税が加算されます。)

今回の企画に選んだ原画を初めて見たのは、ずいぶん以前のことでした。自分の技量を遥かに超えた作品であるにもかかわらず、いつか木版画として甦らせてみせる、と心に念じたことを思い出します。それ以来、この絵のことは常に頭の片隅にあって、自分でカラーコピーしたものをじっくり見つめては、細部を観察してきました。そして、「摺物アルバム」の第5集を終えたとき、実際にこの版画を制作することを考え始めたのですが、時期尚早と見送ることにしたのです。

そして、今なら技量が備わっていると言えるのでしょうか?正直なところ、確信があるとは言い切れません。でも、これ以上先に伸ばしてしまうと、時を逸すると考えたのです。これは大きな作品で、かなりの体力を要します。私は現在54歳、技術的にはもっと熟練してゆくでしょうが、もっと体力が増すとは思いません。そんな意味で、この企画に挑戦する絶好の時だと考えました。

「版画小品集」

2005年の企画だった「版画玉手箱」は、今までのどの作品集よりも多くの方に購入していただきました。海外でも日本でも、収集家の方たちは、様々な絵を上手に組み入れてあってなかなか着想が良い、と思ってくださったようです。そして、「もう一度やってくださいよ」という声が多いのですが、これほど労力の要る企画は、とても2年続けることはできません。でも、お客さまの要望に答えようと2006年には、大きな掛軸を作るだけでなく、小さな作品集も加えることにしました。

「版画小品集」は、葉書サイズの版画です。2月末頃から毎月1枚ずつお送りして、1年で全10枚をお集め頂くことになります。ケースは、どこにでも手軽に置いてお楽しみいただける、収納付きの額になっています。表が額になっていますが、上の開きから見終わった作品を中にしまうことができます。また、保存しやすいよう本棚にすっぽり収められる大きさです。このケースは、最初の作品と一緒にお送りいたします。

今回は、1990年から1999年までの間、新年のプレゼントとして制作した作品なので、保存してある版木を用いて摺ることになります。毎年お世話になった方々や、収集家の方々のために心を込めて考え彫った作品です。題材は干支に関係がなく、新年に相応しい絵となっていますので、幾分季節が寒い時期に合うようになっておりますが、全般的にはいつでもお楽しみいただける作品集です。価格は、1枚 2,000円とかなりお手頃になっておりますので、版画にあまり馴染みのない方たちがお試しになるのにも、良いでしょう。毎月美しい版画がお手元に届きますので、飾って楽しんでいただければと存じます。

以上が、2006年に予定している制作予定の大筋です。例によって、また忙しくなることでしょうが、ひとつだけ確かなことがあります。それは、挑戦の時だということです。手際よく仕上げるというだけでなく、非常に特別な作品を創り出す能力に挑みます。どうか、今年の企画のどちらか(あるいは両方)に、興味を持っていただけますように...

「A Story A Week」

これまでのページで、2006年の間に私が版画に懸ける、今年の2つの企画についてご紹介してきました。もうひとつ、ちょっと趣向の違う企画をご紹介しましょう。この企画、実際にはそう変わってもいないのかもしれません。今まで、収集家の方たちから、毎回の版画に添えるエッセイを、版画と同じくらい楽しんでくださっているという声をたくさん聞いてきました。また、今までにいろいろなところに書いてきているのですが、いつも読者の方たちに好評だったのです。それで、バレンだけでなくペンも握って、こちらの可能性も試してみようと考えました。

元旦から、毎週1話を「 A Story A Week」と名付けたインターネットのサイトに、休まず掲載してゆきます。話は英語で書きますが、ちょっとした助けになるよう、分りにくそうな単語を日本語で説明してあり、同じ文章を私が読んだ声を聞くこともできます。初級者用の英語では書きませんが、率直で分り易い文章ですから、比較的楽に読むことができると思います。話の内容は、木版画に関することではなく、毎回机に向かったときに思いつくことになります。

もしもパソコンがあってインターネットに接続することができるのならば、ぜひ開いて読んでみてください!

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