デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」の一冊の内容です。
ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。
41号から最新号まで
1号から40号まで
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今年も展示会で行ったギャラリートークの様子ですが、聞いている方々の真剣な顔つきを見てください!木版画の話ってそんなに厳粛なんでしょうか? でも、実際に話しているのは、それほど堅苦しい内容ではありません。中のページにある別の写真を御覧になれば、くつろいで互いに話し合う様子が分かっていただけると思います。(毎年、写真を提供してくださる宇田川さんに感謝!)
春号なので、いつものように決算報告があり、ちょっと大事なお知らせもあります。いい知らせばかりとは言えないのですが。また、あと数か月ほどすると、私の続けてきた方式にちょっとした変更が出ます。詳しい内容は、本文をご覧ください。
その他は、いつものように貞子のコーナーと、家族のことがちょこっと加わり、これで紙面はいっぱいになります。
さてさて、これは誰かな? 見たことがないはずなのに、どこか記憶のあるような……この額、この鼻……私には見慣れた感じがするのですが……。
昨年はあまりメディアに取り上げてもらえませんでした。年度末になって、NHKの人気ラジオ番組でインタヴューされる機会はありましたが、一度もテレビに出演しなかったのは、もう何年ぶりでしょうか。
新聞の方も、私は彼らのレーダーには捉えられなかったようです。でも、完全にメディアからシャットアウトを食ったというほどではなく、1年を振り返れば、ちょこちょこ雑誌に掲載されてはいるのです。
朝日ウイクリー 4月
英語を勉強している日本人向けの、タブロイド版の週刊英和新聞です。日本で暮らす外国人を紹介することが多く、今回は私の番でした。英語でインタヴューされたのは久しぶりです!
抜粋:「今回の『自然の中に心を遊ばせて』という企画は、異なる3つの場所(川辺、海辺、森)における四季をテーマにしています。ですから、毎回自然の中で過ごす間に生まれる随筆とオリジナル版画は計12となり、それぞれが和綴じの本となります」
「驚くべきことですよ!」とデービッド氏は続ける。「この東京に、喧噪と雑踏などははるか遠くの世界みたいに思える、静寂な場所があるんです。静かにテントの前に座っていると、あきないですねえ」
「ここでは、色々なことが起こるんですよ。数メートルと離れていないところで、タカが魚を捕らえるんです。鳥がさえずり、いたるところに昆虫が這いずり回っています。夜になると、川のあちこちからいろんな音が聞こえてきて、まるでオーケストラの大演奏ですよ。」
月刊日本語 -- 2007年8月号
こちらは、前述の新聞とは反対に、日本語の先生方を対象にした雑誌です。ふたつの文化圏に住む人たちは、こちらでも興味を惹くらしく、私への質問は、日本文化のどんなところに魅力を感じるかというものでした。
抜粋:世界一のフルート奏者を目指していた青年は、突然来日し、日本の伝統技術を独学で習得、版画職人となった。
エース -- 2007年春号
企業を経営する指導者を対象として、研究団体が発行している雑誌です。現代生活や流行に関する記事がたくさん掲載されているにもかかわらず、古い伝統文化に従事している私のような人間についても興味があるようです。
抜粋:今はむかしのように上質な和紙を作ることも、竹のバレンを手にいれることも難しい。でも私はこれからも、今ある中でベストな素材を使って木版画を作り続けていきたい。なぜなら、(日本の)木版画は世界で一番美しい版画だと思うから。
毎年春号は「レポート」のような記事が多くなります。メディア関連、1月の展示会報告、そして前年度の決算報告です。
最初のひとつは、もうお読みになりましたが、次のふたつは一緒にすることにしました。両方ともお伝えする内容がないからではなく、短くまとまってしまうからです。つまり、展示会も売れ行きも惨憺たるものだったからです。
恒例展示会は第19回目で、新たに私の作品を集め始める方がひとりもいなかったのは、初めてのことでした。幸い、会場にいらしてくださった過去の収集家のうち6人ほどが新企画に予約をしてくださり、同じく以前収集をしてくださった方が過去の集を予約してくださったりしましたので、まったくの空手で会期を終えたわけではありません。それにしても、やはり気落ちしたのは事実です。
問題は、今年も宣伝不足だったためです。ここ5〜6年は、展示会時期にメディアに取り上げてもらうことがほとんどありません。年間を通してみれば、雑誌に載ったりテレビに出たりもしているのですが、展示会に来るお客さんの数には、まるで繋がらないのです。収集家が増えるためには、展示会に多くの人が来場しなくてはならず、そのためには人々の気持ちを捉える僕の記事が必要なのです。かといって、自己資金で展示会の宣伝記事を依頼するのは経済的に不可能。私にできるのは、マスコミ業界に宣伝のパンフレットを送付して、彼らが取り上げてくれることを期待するだけです。そして、先ほども書きましたように、今年も記事はなしに等しいような状態でしたから、1週間の会期中には、閑古鳥の鳴く日が多かったのです。
でも、初日の日曜日だけは例外でした。長年収集を続けてくださっている方達がたくさんいらしてくださり、とても楽しく過ごしました。私の活動を支えてくださる人達に囲まれ、難しい質問について話をしながら、毎日がこんな風ならなあと思わずにはいられませんでした。
交通会館のこの部屋の使用料は、1時間当たり9,000円になります。ですから、友人や収集家の方がいらして賑やかになることがあっても、残りのほとんどの時間があまりに閑散としていると、ちょっとした挫折感を味わってしまいます。
会期を終えて自宅で後始末を済ませると、所得税の申告をするために前年度の帳簿を付けます。
思わしくない数字になると予想はしていましたが、これほど悪いとは思っていませんでした。このグラフをご覧になるとひと目で分かります。
長い年月をかけた百人一首シリーズを終えた直後から続いていた好調な時期を過ぎると、販売量は急転直下。前年度の成績は1993年とほぼ同じ状態です。14年前にこのニュースレターでは、「つらくて長い1年でした」と書いています。
販売収入は、ここ数年よりもひどく落ち込んでいて、必要経費や税金やローンで完全に消えています。一番下の欄を見ると、1年間ほとんど無収入といった状態で、支払い延長を連続することで、なんとか食品などを購入している状態です。
材料供給者やパートの方は事情を承知してくださっているので、あまり強い負い目を感じる事はないのですが。現在机の上には、未払いの請求書が何枚かありますが、たいした額ではないですし、住宅ローン以外に借金は一銭もありません。
とはいえ、この時点で見直さなければならない課題が2つあります。その1、この脱落の原因は? その2、巻き返しをはかるためにどうすべきか。
ひとつ目の課題は簡単です。グラフ上で安定した収入があった期間には、人々に好まれそうな版画を作り、一定の間隔をおいて作品が発送できるように制作することも可能でした。
でも、掛軸を企画した2年前から始まった「ガタ落ち」は、このどちらも満たさなかったために起きたのです。掛軸の制作案を出した時点で、「多くの方に気に入っていただく」には不安があり、それは的中。予定通りには完成しない企画と予想をし、正にその通りになりました。
今振り返ってみると、こうした難しい年の直後に、更に込み入った企画(「自然の中に心を遊ばせて」)をするのは、あまり賢いやり方ではなかったようです。「版画玉手箱、その2」あたりが妥当な企画だったでしょう!とは言っても、過ぎた事はそれまで、後戻りすることはできません。私は、溺れそうな状態にあるのです!
今回の企画を集めてくださっているのは、現在76名です。それぞれの章を200部制作しているので、約3分の1の予約を受けている現況になります。最初の4作を制作するのにかかった時間を基準に計算すると、今年中に作れるのはあと5作強になります。
加えて、過去の集からの収入もわずかながらあり、現在も「百人一首版画シリーズ」をお集めの方もまだ何人かおられます。また昨年は、「木版館」から出版している版画に随分と助けられ、将来こちらからの販売量が重要な割合を占めることを期待しています。
こういったこと全部を考慮しても、今年の収入はあまり期待できないようなので、何とか手を打たなければならない状況です。
それにしても、最も変えてゆきたいのは、先ほど言及しました76という数で、なんとか200という数にもってゆきたいところです。そうすれば、問題はすべて解決ですから! 残念ですが、言うは易く行うは難し。現在私にできるのは、多くの方に好んでいただける作品を作ること、ここさえクリアーすれば、版画も本も新しい所有者のもとに飛び立ってゆけるのですが......長期戦ですね。
もうひとつ考えられる手段は、木版館の商品を増やすことです。ここで販売する版画をすべて購入し、次の作品を注文するのを楽しみにしてくださっている方が、かなりいらっしゃいます。でも、自分でする時間がありませんし、他の職人に頼む余裕もありませんから、現在はこちらの出版を増やすことはできません。
では、どうすればよいのでしょうか? 非常に時間のかかる版画制作に日々追われているし、投資をする経済的余裕がまるでない。こんな状況下に置かれた私に、一体なにができるでしょう?
でも......、望みはまだあります! ほんの少しですが、改善できることが考えられるのです。
まず最初に、ホームページの日本語版です。昨年度の収益のほぼ半分はインターネットからの販売で、そのほぼすべてが英語版から、つまり海外からの注文でした。数年前までは、日本国内でインターネットを通じて物を買うのはあまり盛んではなかったのですが、最近は変わってきて、多くの方々がパソコンを使っての購入に違和感を感じなくなっています。私はその変化に追いついていなく、ビジネスチャンスを逃しているのです。
そのため、ここ数週間は夜の時間をホームページ作りのプログラミングに費やしています。今までの自分の作品と木版館で販売する作品を、分かりやすくかつ魅力的なページで紹介し、買い物カゴ方式も組み入れたものです。
新ホームページは http://mokuhan.com にあります。
このサイトを作るにあたり、アフィリエイトの募集もすることにしました。(これは英語のサイトでも実行しています)ご自分のブログやホームページをお持ちの方ならどなたでも、私の用意した小さな広告バナーを載せてリンクすることができます。このイメージにはアフィリエイトコードが隠れているので、誰かがこの宣伝をクリックして私のホームページに来た場合、元サイトを知ることができます。そして、実際に販売が成立すると、その広告を掲載している人に報酬を支払います。
たいした収入に繋がるわけではありませんが、少しずつ増えていくうちに、私のページを見に来る人も増加することを期待しています。
こういった努力は、どれもなかなか名案ですが、引き出しの中に眠っている作品がうまく旅立だってゆかなければ、私の食料を調達する助けにはなりません。
目下私の箪笥の引き出しは一杯なのです!百人一首シリーズが終わった直後に、全セットを追い摺してあり、すでに書きましたように、まだ一枚ずつ集めている方がいらっしゃいます。でも、もう何年も、このシリーズへの注文が来ていません。それで、全セット百枚のみを受け付けるという従来の方針を継続するのは苦しくなってしまいました。
私は、美しい版画を制作するのが好きですが、作品が引き出しの中で眠ったままになるのでは意味がありません。随分と葛藤を経た後、百人一首に限り、お好きな作品だけでも購入できるよう、単品売りをすることにしました。
要点は次のようになります。百人一首の作品は、単体でも10枚セットでも、100枚全セットでも購入できることにしました。
この方針であれば、投げ売りのような形ではなく、すでにお買い求めいただいた方々のお気持ちを害することもないかと存じます。そして、より多くの方々のお手元に作品が届き、お楽しみいただけることでしょう。
ここでひとつ強調しておきたいことがあります。今回の号では、私の経済状態に関して「悪い知らせ」をたくさん書いていますが、だからといって、当面の苦境に打ちのめされるようなことは決してありません! 現在も版画一本で生計を立てていますし、新しくアーティストとしての一歩を踏み出してから300枚ものオリジナル作品が売れていることを考慮すれば、一目置かれてもいいくらいの成果をあげていると自負しています。
おや、なんてことでしょう!お金と営業方針のことで、内容のほとんどを費やしてしまい、新作についてはまだ何も書いていません! 最新作は最後のページでご紹介します......なかなかいいでしょう?
赤ん坊のことについて書いたのはつい最近のことでしたが、またもやおめでたです! 日実は、新しい家庭作りに専念しているらしく、つい数週間前に第2子を出産しました。私の二人目の孫息子のアンドレイです。
長男のアレクサンドルはまだ1歳半なので、日実はさぞかし忙しいことでしょう。でも、日実からの連絡では、旦那のイオアンがとても協力的だし、他の家族も手伝ってくれているとのことです。
そのうちこのチビちゃんに会えるのが楽しみですが、それまで日実とは(他の家族も一緒に)インターネットを利用した電話で頻繁に話をするつもりです。
いつまでも子供だと思っていた僕の娘が、二人の子持ちになったなんて! こんな日が来るなんて、まるで夢のようです!
もう20年以上も前のことだが、確定申告の時期がくると思い出すことがある。当時私が通っていたスポーツクラブの更衣室で耳にした会話である。仕切りの向こうだから顔は見えず声だけが聞こえてきた。一方の女性がなにやら憤慨して早口にしゃべり、一方がもっともという相づちを打っている。どうやら所得税の申告をしたあと、税務署から職員がきて申告額が足りないと注意され、追徴金を課せられたらしい。入金すべてを計上していたら生活が成り立たないとか、だから不正を見つけられた彼女は運の悪い被害者なのだとか。たいそうご立腹の様子であった。
商売ってそんなものなのだろうか? 何気なくこのことをデービッドに話すと、ちょっと怒りだした。税金はきちんと納めなくてはいけないものなのにどうしてごまかしたりするのか、けしからんと言う。商売の経験がない私には、どっちがあたりまえなのか皆目わからない。自分は給与所得で、税金は天引きされていたから、悲しいかなごまかし方すらわからない。ただ、見るからに自宅用と思える食料品の領収書を請求する人を見る事もあり、申告の実情はそれほど清潔とはいえないのが実情ではないだろうか。
怒るデービッドは、話を続ける。彼は1円たりともごまかしていないそうで、税務署の人が抜き打ち調査にやってこないか楽しみにしているとのたまう。と、ここで私の方から質問があった。収支決算を見ると、デービッドは霞を食べて生きている事になるじゃないか! 一体どうなってるの? するとに、ニヤリとしておもむろに語る。実は、決算した時点では支払いが済んでいなくて先延ばしにしていたのだとか。
身近な存在として本音を言わせてもらえば、こんなデービッドを誇りに思う反面、ちょっと複雑な思いもする。もう少し控除してもいい出費があるのではなかろうか、などと考えてしまう。それなら、自分はどうだろうと考えてみた。
きっとデービッドと同じようにするだろう。でもそれは、正義感からではなく肝っ玉が小さいから。意識的にごまかしたら、いつ悪事が発覚するかビクビクしてばかりいることになりそうで、たまらないだろう! 何億と脱税をする人達はなんて度胸のいい人達なんだろう!
この作品では、今までにない試みをしています。繊細な彫刻刀を脇に除けて、伝統木版画の世界では決して使われなかった三角刀を使いました。これを使って、大胆に版木の表面をえぐることで、勢い良く流れる水の表情を生き生きと表現したかったのです。実験は成功だったと思います。水の中に飛び込みたくなるほどです!
「僕のキャンプ場所は、数か月前に来た時と変わっていない。遠くから見ると、この浅瀬はかなり穏やかで、ガラガラと小石の上を転がる音を立てている。だが近くに寄ってすぐ縁に立つと、岩と流れが荒々しくぶつかる様子が見て取れる。数メートル先の流れの中にはふたつの岩があって、ひとつは水面上に出ているのだが、もう一方は水面のすぐ下にあり、その上を透明で澄んだ水が淀みなく流れている。その二つの岩の間を、水は勢い良く落ちて泡の滝を成している。」