デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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税金

もう20年以上も前のことだが、確定申告の時期がくると思い出すことがある。当時私が通っていたスポーツクラブの更衣室で耳にした会話である。仕切りの向こうだから顔は見えず声だけが聞こえてきた。一方の女性がなにやら憤慨して早口にしゃべり、一方がもっともという相づちを打っている。どうやら所得税の申告をしたあと、税務署から職員がきて申告額が足りないと注意され、追徴金を課せられたらしい。入金すべてを計上していたら生活が成り立たないとか、だから不正を見つけられた彼女は運の悪い被害者なのだとか。たいそうご立腹の様子であった。

商売ってそんなものなのだろうか? 何気なくこのことをデービッドに話すと、ちょっと怒りだした。税金はきちんと納めなくてはいけないものなのにどうしてごまかしたりするのか、けしからんと言う。商売の経験がない私には、どっちがあたりまえなのか皆目わからない。自分は給与所得で、税金は天引きされていたから、悲しいかなごまかし方すらわからない。ただ、見るからに自宅用と思える食料品の領収書を請求する人を見る事もあり、申告の実情はそれほど清潔とはいえないのが実情ではないだろうか。

怒るデービッドは、話を続ける。彼は1円たりともごまかしていないそうで、税務署の人が抜き打ち調査にやってこないか楽しみにしているとのたまう。と、ここで私の方から質問があった。収支決算を見ると、デービッドは霞を食べて生きている事になるじゃないか! 一体どうなってるの? するとに、ニヤリとしておもむろに語る。実は、決算した時点では支払いが済んでいなくて先延ばしにしていたのだとか。

身近な存在として本音を言わせてもらえば、こんなデービッドを誇りに思う反面、ちょっと複雑な思いもする。もう少し控除してもいい出費があるのではなかろうか、などと考えてしまう。それなら、自分はどうだろうと考えてみた。

きっとデービッドと同じようにするだろう。でもそれは、正義感からではなく肝っ玉が小さいから。意識的にごまかしたら、いつ悪事が発覚するかビクビクしてばかりいることになりそうで、たまらないだろう! 何億と脱税をする人達はなんて度胸のいい人達なんだろう!

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