デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」の一冊の内容です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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'Hyakunin Issho'
Newsletter for fans of David Bull's printmaking activities
Summer : 1993

『百人一緒』の夏号です。天候によってわからなくても、このうすい茶色の封筒を受けとられると新しい季節がめぐってきたことがおわかりになると思います。一年に4回定期的にこのニューズレターを発行していることを私自身ほこりに思います。はじめた時には、定期的に発行する時間がないと思っていましたが、今では、各号 200部ばかり、読者の方々に送っており、"個人出版社"のようになってきました。

今回の主な話は、前回のクイズの答えです。いろいろの答えをいただきました。正解は多くありませんでしたが、おもしろい答えがたくさんありました。御参加下さった方々にはどうもありがとうございました。答えと合わせてみて下さい。

その他は、私自身についてです。職人さんや収集家の方々みについて書くことにはことかかないのですが、私は近頃重要な 節目に達しましたのであなた方も興味をもたれるかと思いました。(いいえ、まだ50才ではありませんよ。それはこの企画が終わってもっと先のことです。)

その11:最初の一年間

(前回からの続き)

この企画の最初の年の終わり数ヶ月は、この仕事すべての面でよい進歩がありました。英語教室に週30時間費やしていましたが、 1ヶ月 1枚のペースで版画を作ることができました。彫りに 3週間、摺りに 2〜4日要していました(その時にはほんの数人のコレクターの方々がいるだけで、20枚ばかり摺っていました)。

この頃の一つの興奮する出来事は、私が最初の本物のバレンを手にしたことでした。前のニューズレターでバレン職人五所さんの所を訪ねたことは書きましたから、新しい道具に対しての私のうれしい気持をわかって下さると思います。摺の質はたちどころにひやくをしました。一つにはすばらしい道具にあり、又一つには単にそれを所持しているという自信からでした。進歩というものが"買える"といった単純なものだといいのですが。

羽村に最初に来たとき、木版画のサークルが公民館で活動していましたが、自然に消滅してしまいました。11月の文化祭では、版画作りの企画はなかったので、私がボランティアとして版画製作のコーナーを設けました。子供達が何かしら学ぶことができるのではないかと思ったからです。私は簡単な版を彫り、ブラシ、顔料、紙を用意し、テーブルをセットして子供達が自分で摺って版画を作れるようにしました。版画コーナーは大成功で、長い列ができました。これは羽村文化祭の恒例になり、子供達は今年はどんなデザインかなと熱心に集まってきます。(もちろん 千年も前のテーマではありません。今までの最大のヒットは、子供人気映画『トトロ』のキャラクターです。)

その年の他のおもしろい出来事は、クリスマスの日のNHK イブニング・ニューズに出たことです。その後、いろいろな種類の番組に出演することになりますが、それが最初のものでした。【挿入(宣伝!): 私の仕事についてのテレビ出演には複雑な気持ちをもっています。もちろんそのような機会は気分がいいですが、家族へのテレビの影響は好みませんので、家にテレビを置くことを拒否しています。これは子供達の不興をかうし、テレビプロデュサーはおどろかれます。もちろんテレビも時として有益ですが、マイナス面の方が多いと思います。家族のコミュニケーションがなくなり、悪い影響にさらされ、信じられないほど大きな人生の一部が、考えることなくテレビを見ることによって失われます。誰にそんな時間がありますか。私達は働いたり、勉強したり、遊んだりといそがしく、テレビは全く必要としないです。ためしてみて下さい...あなたのテレビをすててしまってみて下さい... 宣伝終わり...】

その年のおおみそか仕事場に心静かに座り、彫りをしながら過ごしました。その夜おそく除夜の鐘が流れます、私は相変わらずです。猿丸大夫の着物の柄にそって丸をたくさん彫っています。たいへんよい年でした。一方では、収入よりも版画製作によりお金を費やしており、食べていくのがやっとでした。又私はいそがしすぎて、やるべきことをやるのがやっとでした。しかし私の長い旅に真にかかわっていたので、後戻りする気はまったくありませんでした。最終的にはどこに行きつくしっていましたが、どの道をとるかはわかりませんでした。新しい年には何がおこるでしょう...

... 続く ...

クイズの答え

この時を皆さん長い間お待ちになったでしょう? え、そうではないですか? 前回のニューズレターのクイズは少し難しかったようですね。ほとんどの方は答えを送ってこないであきらめられたようですね。幾人かの方々はわりあいに正解を出しました...それもそのはずその方々は版画家です。とにかくこれが答えです。伝統版画のワンポイントレッスンです。

クイズ(1) ほとんどの顔料は水に溶けますが、いくつかは溶けません(藍、紅、朱)。溶かすのに私は何を使うでしょう。

容易に溶けない顔料はまずアルコールに浸します。伝統的な技法に従う摺り師は仕事台のそばに酒の瓶をおいています。(仕事の為だけに使うのかなぁ) 実際には版画に糖分が残ったり、又どんな種類の虫にしろ食物を提供するのはいやだから私は薬局から買う純粋のアルコールを使用します。テレビクイズ番組製作スタッフが家に来た日には酒は全然なかったので、三千代が買いに走りました。彼女はいい酒を選びました。というのはその酒を作っている会社の社長さんがその番組を見て、酒を届けてくださいました。

クイズ(2) 摺りの前に紙を十分に湿らせるのはどうしてでしょう。(二つの主な理由があります)

摺りを始める前夜、摺り師は版画用の紙を完全に湿らせます。西洋の版画家の多くは、乾いた紙に油性の絵の具を用いで摺り、出来上がりの絵は紙の表面だけに現れます。紙は単に顔料をのせるためだけに使われます。日本の伝統版画では色は、バレンによって紙の中まで摺り込まれ、時として裏にまで表われます。これは、まず紙を湿らせておくことによってのみ可能となります。乾いた紙に摺ろうとするとゴマ摺りになってしまいます。

もう一つの理由は、紙がのびることにあります。もし、乾いた紙に多色摺りをしようとすると、紙は、最初の色から湿気を吸収し、紙は少しのびます。そして後の色はずれてしまいます。しかし紙が始めから湿っていると摺りによって紙がもっとのびることはほとんどありません。全部の色を摺り終わって紙を注意深く乾かすと、元の大きさに戻ります。完成した作品は版木よりも少し小さいものとなるのが普通です。

クイズ(3) 仕事場に椿油のボトルがあります。何の為に使いますか。

椿油は三千代の母親からもらいました。私は彼女のように髪につけません。私はそれを摺りの間バレンをのせておく『バレン綿』につけます。バレンの竹の皮は少しすべすべになり、これにはいくつかの効果があります。もちろんバレンは紙の上をすべりやすくなります。そして紙の裏があまりはがれてきません。竹の皮は又湿った紙から水分を吸収しにくくなり、長持ちすることになります。(経験をつんだ摺り師を見ていると意識せずに時々バレンで頭をこすっています。髪から油を少し補給しています。)

クイズ(4) (竹の皮)が版画製作に用いられることはご存知ですよね。どのような用途があるか。三つあげて下さい。

(1)もちろんバレンの外側を包むのに用い、一枚の竹の皮全部用い、のばして、一ヶ所でしばります。(2)バレンの中にかくされている巻いたツナも竹の皮で出来ています。(これは、これからのニューズレターでもっとくわしく見てみることにしましょう) (3)残った竹の皮は、顔料を乳鉢から版木にうつす小さなブラシであるトキボウを作るのに使われます。


クイズ(5) ほとんどの伝統版画の摺り師は、黄色の顔料「石黄」を使います。私は全然使いません。どうしてでしょう。

そうですね。50%イオウ、50%砒素(ヒソ)で作られた顔料を使おうと思いますか。仕事台にかがみこんで細かい粉になり、部屋に粉が舞うまで乳鉢ですろうと思いますか。もしあなたがそうしたとしても、奥さんはどう言うでしょう。


クイズ(6) 三味線糸(第三番が最適)は、何の為に使われますか。

テレビに出た時に彫り師の伊藤進氏におそわりました。私の道具を見て、私が彫刻刃の刃を柄に固定するのにテープを用いているのを見ておどろかれました。私はこのことは問題だとは思ってもみませんでしたが、そのすすめに従って三味線の糸でしっかり刃をしばってみた所、刃が使いやすいとわかりました。

クイズ(7) 摺りの時に何を最初に摺りますか。墨ですか。色ですか。

これは、昔カナダでやっていた時に疑問に思ったことでした。墨を最初するのはいいことで色をその中にうまく入れるガイドになりますが、色が墨の線をおおってしまうことはないのでしょうか。実際そんなことは全くありません。色は白い紙に摺ると濃く深いように見えますが、それらは割合に透明で強い黒の線は色を透してはっきりと見えます。

クイズ(8) 鮫の皮は何に使われますか。

私は最初に版画を作った時には、絵の具をのばすのに軟らかい刷毛を買いました。それらは全く役に立ちませんでした。版画家の刷毛は、適切に顔料、水、糊を版木の上でまぜるのに強くかたい毛でなければなりません。絵の具を版木にぬるのではなく、すりこみます。そうであるから刷毛はやわらかくなくてしっかりしてなくてはなりません。しかしこれは、版木の上に顔料を最終的にのばすのに問題となります。その最後の刷毛のうごきによって、強い毛では『刷毛すじ』がつき、それが版画にあらわれます。解決法としては刷毛をあらい面の上でこすり、毛先をやわらかくします(人間の髪の枝毛のようなものです)。鮫の皮はこれに最適です。一方向には割合になめらかですが、他の方向へは、さわっただけで指がさけてしまうほどです。それは摺り師の弟子の仕事で、刷毛をこの自然のサンドペーパーの上でこすり、毛先をやわらかく保つようにします。刷毛が堅くなると鮫の皮にかけて毛先をやわらかくします。短すぎて使えなくなるまで何回も繰り返します。(いつの日か、この仕事をする弟子ができるかも知れません...)

クイズ(9) 彫り用の刃の現代の呼び名は彫刻刃ですが、年配の彫り師の方々は違った名称を用います。それは何でしょう。

今、彫り師が使っている彫刻刃は実際に昔、武士が用いた短い刀に由来すると聞きました。短い刀のものは『コガタナ』といわれました。経験のある彫り師はまたこの名称を用いています。これは、刀のようには見えませんが、同じような技術を用いて作られました。地金(じがね)と鋼(はがね)をあわせて作り、やわらかく曲がりやすい地金が、するどい刃になるかたく、こぼれやすい鋼を支持します。

クイズ(10) 私は仕事場に細長いなめらかな黒い石を置いています。その石は私の手の中にちょうど入ります。この石は何に使われますか。

この問題を見た時、松崎さんは笑われたと思います。「どうしてそんな古いやり方でしているんだろう...」と彼は思われたに違いありません。バレンをおおう竹の皮は大変強いものですが、強くこすることによって早く消耗してしまい、頻繁にとりかえなければなりません。摺り師は竹の皮の束をそばに置いており、新しいのに替えるのは簡単に3分位でやってしまいます。かんたんです。もし、親方がやるのを数百回も見てきたとしたら... かんたんです。もし、自分で数千回やってみたとしたら...  私には、まだ簡単ではありません。 もし時としてあなたが、笑いたい気分になったら、三千代に私がいかにしてバレンを竹の皮でつつむか説明してもらうといいでしょう。

竹の皮が十分にのびていないと、バレンは役に立ちません。水でやわらかくした皮はまずかたい板の上で手でのばします。それから適切にのばされます。それは板の上で何かかたいものでこすり繊維をのばし、平らにします。それから型に切りバレンを包みます。 言うは易く...

もちろん、クイズの石は*をこする堅い物で昔の摺り師のようです。 私は注意してそれを選びました。 小さすぎると力が入らないし、大きすぎると竹の皮をいためてしまいます。そしてどうして松崎さんが笑うのですか? それは彼が、伝統にこだわらず、効果的かどうかが大切で、彼は日本の生花に使うハサミの柄の方でこすります。何と現代的なやり方でしょう...

ペッタン!

今から数日のうちに(7月1日)日本に来て7年目の記念日になります。7年前に成田空港についた時は、日本に滞在できる公式の許可はもっていませんでした。カナダのバンクーバーにいたときに『文化査証』(ビザ)を日本領事館に申請しましたが、拒否されました。木版画を学びたいという思いが強かったので、ビザなしで日本に来ました。三千代は全く日本に戻りたくはありませんでしたが、彼女には私がバンクーバーでのサラリーマン生活がだんだんいやになっているということがわかっていましたので、私達は、家具等全部を倉庫にあずけてバンクーバーを離れました。私は富実を背おい、三千代は衣服の入ったサックを背おい日実の手をひいて飛行機に乗りました。日本滞在許可が得られるかどうか、どんな生活が待ってるいるか、どこに住むのか、どうやって生活していくかわかりませんでしたが、とにかく日本に来ました。

成田で入国管理管に何と言ったらいいかわかりませんでした。3ヶ月の観光ビザが得られて又3ヶ月延長できることはわかっていましたが、観光ビザでは働くことができなく、家族を養っていくことはできません。何らかの学生ビザが得られるといいと思っていました。そうすると一週間に何時間か働くことがでくます。入国管理管が三千代と子供達を見ていました。  「こちらはあなたの家族ですか。彼女は日本人ですか」と彼は聞きました。  「はい。はい、そうです」私が答えました。  「じゃ、配偶者ビザを申請しては、いかがですか。そのビザでどこへでも住めるし、どこででも学べるし、どんな仕事でもできますよ。制限はありませんよ」と彼が勧めてくれました。

私は信じられませんでした。そんなことは聞いたことがありませんでした。カナダの日本領事館では、文化査証を申請したり、待ったり、許可がおりなかったりと6ヶ月も費やしたのですが、このことについては一言も言われませんでした。これは私の願いにたいしての答でした。その日は、観光ビザで日本に入国しました。2ヶ月後には、私達は本当に家族だということを証明して配偶者ビザを手に入れました。最初は、6ヶ月毎に更新で、その後は一年間(2回)、それから3年間有効になりました。更新は何ら問題なくできました。手続きは簡単で、早く、とても友好的でした。しかし私は入国管理局にいくたびに刀が頭の上につるされているような気がしました。もし今回だめだったらどうしょう... 私の仕事はどうなるでしょう... 家族は? 私の人生は? 私の3年のビザが切れた昨秋、ビザの更新をしました。当時、他の申請もしてみました。それにはいろいろな書類をそろえる必要がありました。履歴書、戸籍と婚姻証明、住民票、数年前にさかのぼって納税証明(国、都、市)雇用証明、保証人についての書類(雇用、納税、及び家族について)。今年の4月、7ヶ月待って私の要求は認められました。大手町の入国管理局に行って、パスポートに永住許可の印をもらいました。

違う気持がするだろうか? そうですね。それは、そうでもあるし、そうでもありません。もちろん私は永住許可がとてもうれしく、安心感があります。これで3年毎に滞在許可をもらいにいく必要はありません。それは又、この社会にとって有益な何かをしているということを公的に認められるということはうれしいことです。しかし一方ではそんなに違いが感じられません。最初日本に一歩ふみ入れた日から近親感を持ってきました。これは大きな疑問です。いろんな状況を考えると私はこの国で快適なはずはないのですが... 大きな言葉の問題... 私の日本語はゆっくりと上達していますが、私が本当に言いたいことのほんの一部分しか伝えることができません。カナダではまったく言葉の問題はありませんでした。ここでは文盲のようで...おもしろい本屋さんの前を通りかかっても、発達のおくれた子供のようでイライラしてさけび出したくなります。カナダでは、本屋に住んでいたようなものです。ここでは、私の生活環境は、狭く快適ではありません。ふとんを敷く細長いスペースをつくる為に毎晩彫りによる木のくずをかたずけなくてはなりません。カナダでは、もちろん広い住空間をエンジョイできます。カナダの友達が私のように住まなければならなかったらこの時までには悲鳴をあげて逃げ帰ったでしょう。どうして私には快適なのでしょう。

そうですね。もちろん、そのいい部分は羽村という地域社会にあります。世界中のいろんな社会を知っていますが、ここほど個人の権利と社会にたいしての責任のバランスのとれている所を私は知りません。ケネディの有名な言葉があります... 『国があなたの為に何をしてくれるかと考えるのではなく、あなたが国の為に何ができるか考えて下さい』。これはここでは、実際に真に見られ、私自身この地域社会の為に何か出来る立場にあることをうれしく思います。

もう一つの理由は、娘たちにあります。彼女達は 100%この社会にとけこみ、学校、たくさんの友達、いろんな活動を楽しんでいます。成長するのにこれよりいい生活環境は世界のどこにもないように思います。

時として学校の行事、PTA、ドッジボール大会、ピアノ教室に時間がとられることで文句を言いたくなりますが、地域社会の生活として重要だからやらなくてはと思っています。

しかしもちろん、第一の理由は、私の仕事にあります。毎日、日本のタタミに座って、日本の伝統的道具を用い、日本の版木に彫り、日本のデザインを作っています(何世紀も前の日本の歌人に基づいた)。それから日本の顔料を用いて、伝統的な和紙に摺っています。仕事と住む所がよく合っています。他のどこに私の働ける場所があるというのでしょう。

私は日本人になりつつあるのでしょうか。そのことは、わかりません。私はイギリスで生まれましたが、5才の時に離れましたし、イギリス人だとは感じません。私はカナダで育ちました。しだいにカナダの社会にたいしてなじみがなくなってきて、なぜかカナダとの結びつきがあまり感じられません。私の国籍が何なのかわからなくなってきました。しかし疑いのないことがあります。私はしばしば『あなたの国はどこですか』ときかれます。どれくらいになるでしょうか、私の答えは、いつも同じでしたが、今ではパスポートに押された新しいスタンプによって、それが公的になりました。私の国は...日本です。

あと3回ばかり発行すると『この企画の始まり』の欄は自然に終わりに近づき、時々『この企画の最新情報』をのせることになるでしょう。この欄に代るものを考えています。そこで何か提案がありますか。私はいろいろアイデアがありますが、あなた方が何に興味があるかわかりません。『百人一緒』にどんなことをのせたらいいと思いますか。もし何らかのご意見をおよせ下さると、何かしらおもしろく読めるものにまとめあげられると思います。アイデアをおよせいただかないと何を書くかわかりませんよ。御用心...