デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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クイズの答え

この時を皆さん長い間お待ちになったでしょう? え、そうではないですか? 前回のニューズレターのクイズは少し難しかったようですね。ほとんどの方は答えを送ってこないであきらめられたようですね。幾人かの方々はわりあいに正解を出しました...それもそのはずその方々は版画家です。とにかくこれが答えです。伝統版画のワンポイントレッスンです。

クイズ(1) ほとんどの顔料は水に溶けますが、いくつかは溶けません(藍、紅、朱)。溶かすのに私は何を使うでしょう。

容易に溶けない顔料はまずアルコールに浸します。伝統的な技法に従う摺り師は仕事台のそばに酒の瓶をおいています。(仕事の為だけに使うのかなぁ) 実際には版画に糖分が残ったり、又どんな種類の虫にしろ食物を提供するのはいやだから私は薬局から買う純粋のアルコールを使用します。テレビクイズ番組製作スタッフが家に来た日には酒は全然なかったので、三千代が買いに走りました。彼女はいい酒を選びました。というのはその酒を作っている会社の社長さんがその番組を見て、酒を届けてくださいました。

クイズ(2) 摺りの前に紙を十分に湿らせるのはどうしてでしょう。(二つの主な理由があります)

摺りを始める前夜、摺り師は版画用の紙を完全に湿らせます。西洋の版画家の多くは、乾いた紙に油性の絵の具を用いで摺り、出来上がりの絵は紙の表面だけに現れます。紙は単に顔料をのせるためだけに使われます。日本の伝統版画では色は、バレンによって紙の中まで摺り込まれ、時として裏にまで表われます。これは、まず紙を湿らせておくことによってのみ可能となります。乾いた紙に摺ろうとするとゴマ摺りになってしまいます。

もう一つの理由は、紙がのびることにあります。もし、乾いた紙に多色摺りをしようとすると、紙は、最初の色から湿気を吸収し、紙は少しのびます。そして後の色はずれてしまいます。しかし紙が始めから湿っていると摺りによって紙がもっとのびることはほとんどありません。全部の色を摺り終わって紙を注意深く乾かすと、元の大きさに戻ります。完成した作品は版木よりも少し小さいものとなるのが普通です。

クイズ(3) 仕事場に椿油のボトルがあります。何の為に使いますか。

椿油は三千代の母親からもらいました。私は彼女のように髪につけません。私はそれを摺りの間バレンをのせておく『バレン綿』につけます。バレンの竹の皮は少しすべすべになり、これにはいくつかの効果があります。もちろんバレンは紙の上をすべりやすくなります。そして紙の裏があまりはがれてきません。竹の皮は又湿った紙から水分を吸収しにくくなり、長持ちすることになります。(経験をつんだ摺り師を見ていると意識せずに時々バレンで頭をこすっています。髪から油を少し補給しています。)

クイズ(4) (竹の皮)が版画製作に用いられることはご存知ですよね。どのような用途があるか。三つあげて下さい。

(1)もちろんバレンの外側を包むのに用い、一枚の竹の皮全部用い、のばして、一ヶ所でしばります。(2)バレンの中にかくされている巻いたツナも竹の皮で出来ています。(これは、これからのニューズレターでもっとくわしく見てみることにしましょう) (3)残った竹の皮は、顔料を乳鉢から版木にうつす小さなブラシであるトキボウを作るのに使われます。


クイズ(5) ほとんどの伝統版画の摺り師は、黄色の顔料「石黄」を使います。私は全然使いません。どうしてでしょう。

そうですね。50%イオウ、50%砒素(ヒソ)で作られた顔料を使おうと思いますか。仕事台にかがみこんで細かい粉になり、部屋に粉が舞うまで乳鉢ですろうと思いますか。もしあなたがそうしたとしても、奥さんはどう言うでしょう。


クイズ(6) 三味線糸(第三番が最適)は、何の為に使われますか。

テレビに出た時に彫り師の伊藤進氏におそわりました。私の道具を見て、私が彫刻刃の刃を柄に固定するのにテープを用いているのを見ておどろかれました。私はこのことは問題だとは思ってもみませんでしたが、そのすすめに従って三味線の糸でしっかり刃をしばってみた所、刃が使いやすいとわかりました。

クイズ(7) 摺りの時に何を最初に摺りますか。墨ですか。色ですか。

これは、昔カナダでやっていた時に疑問に思ったことでした。墨を最初するのはいいことで色をその中にうまく入れるガイドになりますが、色が墨の線をおおってしまうことはないのでしょうか。実際そんなことは全くありません。色は白い紙に摺ると濃く深いように見えますが、それらは割合に透明で強い黒の線は色を透してはっきりと見えます。

クイズ(8) 鮫の皮は何に使われますか。

私は最初に版画を作った時には、絵の具をのばすのに軟らかい刷毛を買いました。それらは全く役に立ちませんでした。版画家の刷毛は、適切に顔料、水、糊を版木の上でまぜるのに強くかたい毛でなければなりません。絵の具を版木にぬるのではなく、すりこみます。そうであるから刷毛はやわらかくなくてしっかりしてなくてはなりません。しかしこれは、版木の上に顔料を最終的にのばすのに問題となります。その最後の刷毛のうごきによって、強い毛では『刷毛すじ』がつき、それが版画にあらわれます。解決法としては刷毛をあらい面の上でこすり、毛先をやわらかくします(人間の髪の枝毛のようなものです)。鮫の皮はこれに最適です。一方向には割合になめらかですが、他の方向へは、さわっただけで指がさけてしまうほどです。それは摺り師の弟子の仕事で、刷毛をこの自然のサンドペーパーの上でこすり、毛先をやわらかく保つようにします。刷毛が堅くなると鮫の皮にかけて毛先をやわらかくします。短すぎて使えなくなるまで何回も繰り返します。(いつの日か、この仕事をする弟子ができるかも知れません...)

クイズ(9) 彫り用の刃の現代の呼び名は彫刻刃ですが、年配の彫り師の方々は違った名称を用います。それは何でしょう。

今、彫り師が使っている彫刻刃は実際に昔、武士が用いた短い刀に由来すると聞きました。短い刀のものは『コガタナ』といわれました。経験のある彫り師はまたこの名称を用いています。これは、刀のようには見えませんが、同じような技術を用いて作られました。地金(じがね)と鋼(はがね)をあわせて作り、やわらかく曲がりやすい地金が、するどい刃になるかたく、こぼれやすい鋼を支持します。

クイズ(10) 私は仕事場に細長いなめらかな黒い石を置いています。その石は私の手の中にちょうど入ります。この石は何に使われますか。

この問題を見た時、松崎さんは笑われたと思います。「どうしてそんな古いやり方でしているんだろう...」と彼は思われたに違いありません。バレンをおおう竹の皮は大変強いものですが、強くこすることによって早く消耗してしまい、頻繁にとりかえなければなりません。摺り師は竹の皮の束をそばに置いており、新しいのに替えるのは簡単に3分位でやってしまいます。かんたんです。もし、親方がやるのを数百回も見てきたとしたら... かんたんです。もし、自分で数千回やってみたとしたら...  私には、まだ簡単ではありません。 もし時としてあなたが、笑いたい気分になったら、三千代に私がいかにしてバレンを竹の皮でつつむか説明してもらうといいでしょう。

竹の皮が十分にのびていないと、バレンは役に立ちません。水でやわらかくした皮はまずかたい板の上で手でのばします。それから適切にのばされます。それは板の上で何かかたいものでこすり繊維をのばし、平らにします。それから型に切りバレンを包みます。 言うは易く...

もちろん、クイズの石は*をこする堅い物で昔の摺り師のようです。 私は注意してそれを選びました。 小さすぎると力が入らないし、大きすぎると竹の皮をいためてしまいます。そしてどうして松崎さんが笑うのですか? それは彼が、伝統にこだわらず、効果的かどうかが大切で、彼は日本の生花に使うハサミの柄の方でこすります。何と現代的なやり方でしょう...

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