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August 12, 2006

古い日本の版画を詳しく調べたことのある方なら、こんな疑問を持ったことがおありでしょう。「昔の版画には色がはみ出ているものが多いけど、なぜだろう。」すぐ出てくる答えは、使い古した版木を使っていることが多いからです。湿度が変化する度に版木も変化するので、正確な見当の位置を保てないのです。

私は新品の版木を使っていますが、それでも材は「生きて」いるかのようです。版下を準備したのは春、彫をしたのは湿度の高い夏の間、そして、摺に取組もうとしている今は空気が乾燥している秋。そんな事情ですから、どの工程でも、常に見当を調整しなくてはならないでしょう。


この問題を解決するために、私は大きくてしっかりとした材質のマイラープラスチックを利用するつもりです。このシートを、完成した時点の版画よりも少し大きいサイズに切り、ジグ上にある見当に合わせ、手前の端にテープで貼付けるのです。そうすれば、シートをめくったり戻したりして、版木の変化に対応できるからです。

これによって、工程は単純化します。まず、マイラーに2枚の墨版を摺っておきます。それから、色版を1枚ずつ置いて、透明なマイラー上の輪郭線を見ながら詰め木を入れて、版木の位置を調整するのです。

摺りを始めてからも、紙の膨張・収縮やバレンの圧力による伸びのために、きりのないほどの調整を続けますが、少なくとも、この方式を考案した御陰で、版木が正しい位置にあるかどうかだけは知る事ができます。