デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」の一冊の内容です。
ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。
41号から最新号まで
1号から40号まで
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このニュースレターを発行するようになって、もう何年にもなりますが、いつも色々な記事をバランス良く入れるように編集してきました。「主」となる記事を1〜2点、毎回同じテーマの物をやはり1〜2点、その間に「ニュース」を散りばめれば、ほどよいバランスになります。ところが最近は、実に様々な事を同時進行させているので、どのページもニュースで埋め尽くさなくてはなりません。今号は、文字通り「ニュースレター」です!
内容は、私個人の版画制作に関する事柄と新しく始めた出版事業の「木版館」の状況です。そう言えば、皆さんのお知恵を拝借したい事があります。この「百人一緒」を発刊したのが1990年の秋、以来この名前はそのまま使用しています。でも、私の活動範囲は当時から見るとかなり広がっているので(木版館も含めて)、そろそろ「格上げ」したいところです。
また、現在の名前は、日本語としてしか理解されないので、何か世界中にいる収集家の方たちにも理解し易い名前にしたいのです。
何かいい案がありますか? 思い付きましたら、是非ご連絡ください!
今回はたくさんの方をご紹介するのですが、身勝手をお許しいただいて、まずは私自身の企画についてご報告させていただきます。
現在制作している「美の謎」シリーズはとても順調で、収集家やサイトを訪れる方たちから好評を得ています。いくつかの観点から見て「的を射た」企画だったからでしょう。面白味があり、しかも変化に富んでいること、ひと月に1作というリズム、手頃な価格(それどころか、まったくのお買い得です!)、私が考案した収納箱を兼ねる飾り台。
また収集家の方たちは、どのような作品が送られてくるのかまるで分かりません。この「サプライズ」効果が、ちょっとした魅力になっているのは興味深い点です。作品を見なければ購入しないのが普通ですから、私の作品を集める人たちからは信用されているようです。それに見合うだけ長期の記録を作っているのだと思います!
この記事を書いている現在、15作目(右にある写真が、彫をしている最中の版木です)を制作していますので、あと残すは3作のみです。全18作が完成するのは、年末になるでしょう。
次の企画については、まだまったく考えていません。先行き不透明な経済状況が続く実情を考慮すると、作品は「手の届きやすい価格」にする必要があるので、現在の企画の流れを引き継ぐ傾向となるでしょうが、より充実した版画を創り出していきたいという気持は強くあります。
か良い案、あるいは、こうした私の考えについての助言などありましたら、是非お聞かせください。みなさんの応援に感謝しています!
工房にウェブカメラを設置して、いつの間にか丸10年が過ぎてしまいました。世界中の人が、インターネットを通して私の仕事を「観察」できるように、との思いから設置したのが始まりです。
この間色々な反響があり、作業の公開がとても有意義に活用されているということが分かりました。始めた当時は、インターネットの接続が遅いために、動画としては伝達されず、工房で撮った「スナップ写真」が次々と写っているような状態でした。
でも数か月前、遂にこれをグレードアップすることができたのです。現在は、私が仕事をしている時間にウェブカメラへアクセスすると、実況で見られるだけでなく、音も(川のせせらぎも)聞くことができます。それだけではありません、「呼び出し」をすれば私と会話をすることもできるのです。この電話機能が組み込まれたシステムは、いくつもの回線を同時接続することができるので、先日などは、京都・オレゴン州・テネシー州の3人と同時に会話をしていました。とても面白いですよ!
短いニュース記事がたくさん続きましたが、ここで、どなたにとっても予想外な記事の登場です。私は20年以上もの間、ひとりきりで工房の切り盛りをし、完全なる「ワンマンショー」ともいえる状態を続けていました。でも先月から、最初の従業員が工房に加わるようになりました。見習い摺師の對馬康恵さんです。
何故? どのようにして? 何を? ご説明する前に、ちょっと時代を遡らなければなりません。木版画が社会の中で欠かせない存在であった頃は、複雑な浮世絵から日常使う単純な物(包装紙など)まで、実に色々な段階の仕事がありました。ですから常に、見習い用の仕事もたくさんあったのです。工房の親方は、初心者にはまず簡単な作業を与え、習得の度合いに合わせて少しずつ難しい課題に移行していったのです。
このような仕組みが遥か以前に失われた現在、一体どこから一人前の摺師は育つのでしょうか。
これを解決する道はたった1つしかありません。それは、木版館のブランド名で幅広い木版画商品を考案して、将来の摺師が登っていける階段を提供し、昔の仕組みを再構築するのです。
その出発点がここにあります。地元のお菓子屋さんに,木版製の掛け紙を使ってもらうよう交渉したのです。もちろんお菓子屋さんの費用負担はありません。店内に掛け紙を置いてもらい、「オプション」としてお客様に百円で選んで頂くと言う仕組みです。そして、購入した菓子箱は本物の手摺版画で包まれます。
たったの百円を追加することで、本物の版画が「贈り物の価値」をグンと引き上げます。
その百円はもちろん私共の収入となりますから、制作費に補填することができます。ここに對馬さんが登場する訳です。彼女が工房に来るようになって1ヶ月余りしか過ぎていませんが(週に1〜2回、数時間毎の出勤です)、すでに売り物になる作品を作っています。彼女はこの掛け紙を摺っていて、この御菓子はすでに世界中の人に送られています。そう、木版館から青梅せんべいが購入できるのです!
版画制作に関してはまるで経験がなかった彼女ですが、とても飲み込みがよいので、私が次の問題に直面するのは間もないことでしょう。彼女がもっと複雑な作品に取り組めるようになったら、掛け紙作りの作業をお願いする次の初心者を探さなくてはなりません。
それまでの間、この商品を利用できるお店をご存知でしたら、お教えください。對馬さんと私が、喜んでそのお店用の掛け紙をご用意いたします。
もう「木版館」のニュースはうんざりですか? 私はまだまだ……、ネタは尽きませんから。真面目な話、本当にたくさんあります!
私自身の企画は順調に進行していますが、数年前に始めた新事業である木版館の方は、のろのろとしか前進していません。理由は、時間とお金という両方の資源が不足しているからです。数か月毎に千社札が加わるようにはなったものの、(掛け紙の事は言わずもがな)ひどくゆっくりとした伸びです。
そこで数ヶ月前に、あることを思い付きました。信頼できる知人で版画を持っている人に、彼らが保有する版画を販売ルートに載せてみないかと、話を持ちかけてみよう。彼らは版画を世界中に向けて宣伝してもらえるし、私はもっと変化に富んで面白味もある商品を木版館に加えることができます。
という次第で、私は可能性を開拓することにしたのです。嬉しいことに、3人の協力者をここにご紹介することができます!
1)故吉田遠志(とし)氏の全作品の中から、私の友人でトップクラスの摺師でもある沼辺伸吉さんが、保存されている版木を用いて新たに摺った作品。沼辺さんは、吉田氏の息子さんである司さんの元で仕事をしています。このページにある2羽の鶴をテーマにした作品はその中の1枚で、50作以上を掲載する予定です。
2)匠版画工房(千社札をお願いしている佐藤さんが現在所属する朝香元晴氏の工房)が提供している作品です。新作もありますが、かつて一流の版元として名をはせた高見澤工房(現在はありません)の在庫品も多くあります。ほとんどが浮世絵の復刻版ですが、今後は現代の作品も増えることでしょう。
3)友人の上田真吾さんは、古美術商としての資格を保有していて、珍しい本や版画を提供してくれます。東京の神保町で開催されるオークションに毎週参加し、あらゆる種類の掘り出し物を見付けては持ち帰っています。その中から、木版画に相応しいと思われる品を提供してくれます。
こういった訳で、私の事業は大幅に拡大することになりましたが、これらの作品を木版館の商品としてご紹介するまでには、少し時間が必要です。自分の制作の合間を縫っては少しずつ、これらの作品をインターネットのカタログに追加していく予定です。
どうぞ、木版館のホームページを時々覗いては、どんな作品が追加されているかを見るようにしてください。メニューを上の3つの提供先に分けて載せてありますので、欲しくなる作品がいずれかから見つかることでしょう。
曇りと雨の日にはお休み。晴れれば実行。これ、なんでしょう?
答えは、太陽電池を組み込んだ扇風機(LEDライト付き)とランプと懐中電灯(ラジオ付)を、屋根の上まで運ぶ事。本音を言えば、ドカンと太陽光発電装置を設置したいところだが、いかんせん初期投資が掛かり過ぎるので、ままごと遊びもどきの「新兵器」を購入することにしたのだ。
実は、これらはすべて緊急事態を考慮して購入したのだが、普段使っていないといざという時に「どこに仕舞ってある?」ということになりかねない。それで、日常用としても使うことにしたのだ。夜になると、再び階段を登り「3兵器」を取り込む。扇風機は外気を中に入れるために窓際に置き、照明は階段や廊下に置いて点灯する。これで節約する電力量など微々たるものだが、毎日のこうした行為が、便利な生活に慣れきっている私の意識に大きな影響を及ぼすようになった。
現代の生活はとにかく便利。指一本をちょいと使えば、照明はおろか洗濯もできてしまう。それが、今までパチパチと押していたスイッチを押す前に、ほんとうに必要か考えるようになったのだ。改めて考えれば、夜なのに家中を必要以上に明るくしていた。これは体のためにも不自然なことではないだろうか。3月に起きた原発事故以来、日本中が節電を余儀なくされている。一般家庭向けには、電球をLEDライトに切り替え、テレビの明度を落とし……、と様々な節電案が紹介されている。
原子力推進派には異議のあるところだろうが、便利と引き換えに命の危険を提供するのはご免被る。自分の命ならまだしも、小さな子供たちの未来を脅かし、便利さの付けを未来に残すことは許されない行為だと思うから。その結果、限りなくゼロに近い努力とは知りつつ、何かをせずにいられないのだ。
こうした細々とした努力をしているある日、用があって新宿に出掛けると、パチンコ店の前を通る度に入り口から猛烈な冷気が吹き出していた。冷気と一緒に猛烈な音響も吹き出てくる。なんたる矛盾!腹が立つ。でも「それが実情」。自分には、世の中の大きな流れを変える力はないのだから、怒ったところで何になろう。その代わり、たとえ自己満足を得るだけの行為かもしれないが、コツコツとできる事をしようと。
世の中、「心ない人」もいれば「心ある人」もいる。私に人を変えることはできないが、後者に属するよう生きることだと肝に念じることはできる。敵は己の中にあり!
「私だけの遊び場」
版画と仕事に関する話はもうおしまい。くつろぎの時間です!
ここ青梅の家に住むようになって、もう10年以上になります。この辺りの自然の「巡り」については、もう十分知るようになりました。この家を買うことを考えていたとき、最も心引かれた要素のひとつは、敷地のすぐ下を流れる小川でした。購入したのは冬でしたから、川の水位はとても低く、ほんのひたひた位の量でしたが、春になって雨が降るようになると、様々な生き物が活発に活動していることが分かったのです。
夏が来ると、それに合わせて昼休みの過ごし方も変化します。昼食と飲み物を小さなバックに入れて、工房の下まで階段を降りて、ほんの数メートル離れた小さな堰まで水をかき分けて歩いていきます。そこは完全に緑に覆われていて、まったく僕1人きりの場所になっているので、1時間かそこらの間ゆったりとくつろぎます。
昼食をむしゃむしゃ食べながら魚にパン屑を投げてやり、僕もちょっとの間魚たちの仲間に入れてもらいます。天気が良くて暑い時だけですがね。(残念ながら、大きい魚は写真が撮れるくらいの距離には近づいてこないのです!)
今でも、まだ信じられないほどです......。ここは東京都内ですよ!