オウムとどんぐり

「美の謎シリーズ」での探求が終わりに近づくにつれ(残すはあと1作のみ)、まだお話したいことをたくさん思い付くようになり心残りです。回数の決まったシリーズの中で、すべてを語ろうとするのは所詮無理な話ですが、それでもなんとか、木版画に関する大事な点の多くに言及できたとを願っています。今回の版画では、日本伝統木版画における「刷新」という重要な点について探ります。

美術に関する一般知識がある人(アジアの作品については特に知識がない)にこの版画を見せて、制作された時代を予想してもらうと、きっとほとんどの人は20世紀と答えるでしょう。確かに現代的な作品で、細部の描写などは抽象的とも言える画き方です。でも、実際に作られたのは1700年代後半です!(作者である伊藤若冲は1800年に没しています。)この年代をもう少し身近な例で説明すると、アメリカの方たちには、この版画は皆さんの国とほぼ同年齢ということになり、日本の方たちには、歌麿や蔦屋重三郎が活躍した時代となります。

では、そんなに「古い」作品が、どうして「現代的」に見えるのでしょうか。皆さんはもう答えが、お分かりかも知れませんね。日本の版画が西洋の美術家たちに多大な影響を与えている事は、何度も耳にしていることでしょうから。この版画にある次のような基本要素は、日本の絵師たちにとってごく当たり前のことでした。いたるところにある平坦な色、何もない広い空間、完璧なバランスを保つ構成部分。でも、こういった表現方法は長い年月の間、外国の作家たちから「隠されて」いました。そして日本が遂に国を開くと、この手法が世界中の美術家たちの注目を集め、美術の世界に革命の火を点けることになったのです。

インターネットが発達した現代では、2度と再びこのような現象が起きることは、まずあり得ないでしょう。独創性豊かな作品を生み出す人達が、1世紀以上もの間、国外と没交渉の状態におかれていた、という特殊状況の連鎖がこのような現象に繋がったのです。

でもこの結果は、世界の文化として永遠に生き続けることでしょう!

平成23年11月

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