中国の木版画

これは、「美の謎」シリーズに加えて良い作品でしょうか。17世紀初期に中国で作られた、「十竹斎書画譜」という題の版画集があり、その中の一作を復刻しました。

日本の芸術や文化には、中国や韓国といったアジア大陸が発祥の地になっていものが多くあります。漢字はその典型的な例で、宗教や農業の分野においても大陸からの影響は顕著に表れています。

木版画技術も中国から伝来したものと思っている方が多いようですが、面白いことにそうではありません。発祥の優先順位には議論の余地がなく、もちろん版画を考えたのは中国が先ですが、興味深いことに、日本の技法が大陸の方式とはまったく違っているのです。特徴のある和紙を用い、バレンを使用し、「見当」を利用するという発想など、どれも中国の手法にはないものですから、日本人が、独自の制作方法を編み出したことは間違いありません。

では、私がこのシリーズに中国の作品を加えるのは何故か。中国の典型的な版画を紹介したかったという理由はそのひとつですが、日本の方式の可能性を示したかったというのも理由です。日本の技法なら、どんな版画でも―たとえ別の方法で描かれた作品でも―複製できるのです。その一例として、私はセザンヌの絵を日本の木版画で再現した作品を見た事がありますが、顕微鏡検査でもしなければ見分けができないほど精巧にできていました。

多少ひいき目な見方をしているのでしょうが、私には、日本の伝統木版画技法で複製不可能なものはないように思えます。非常に幅の広い表現力があるので、この可能性に不満を述べる芸術家など、どの文化圏にもいないことでしょう。中国の古い版画には魅力的な作品があり、そのことは否定しませんが、私の一途な心が至る世界は不動です!

平成23年9月

(Click to close)