雪中の渡し

このシリーズ後半、最初の作品は再び明治時代からです。オリジナルは、これ自体がひとつの作品として成立していた訳ではありません。今ご覧になっている絵は、もっと大きな版画の背景のほんの一部でしたが、一目見たときから私は惹かれてしまいました。そして、いつかこの部分を「表舞台」に立たせてあげたいと心に決め、実現したのです!

今シリーズを始めて間もない頃に、日本の伝統木版画において白を表現する場合には、たいてい紙自体の白さ用いる、ということについて説明をしました。前回の作品でも、空に浮かぶ月は背景の一部を「摺り残す」ことによって、紙自体の色を際立たせています。

その、紙の白色を拝借するという、同じ手法は、版画で雪を表現するときにも一般に使われるのですが、その他にも摺師に使われる方法があるのです。ひとつは、雪片を彫った版木に不透明な白絵の具を使って摺り、その下にある色を覆ってしまうやり方です。この方法ですと、当然のことながら、どの作品にある雪も全く同じになります。

今回私は、これとも違う手法を用いました。明治時代の職人だけでなく、現代の小学生でもよく知っている方法です。つまり、刷毛で絵の具を飛び散らすのです。これは一見単純な手法で、ニカワを混ぜた胡粉を刷毛に付けてパッと振るだけですが、実際はかなり慎重にやらなければうまくいきません。ひとひらの破片が大きすぎるだけで、その効果のみならず絵全体を台無しにしてしまいますから。それで私は、紙からちょっと離した位置に網を置き、そこをめがけて胡粉を振りました。すると、大きい破片は網にかかりますから、小さな胡粉だけが紙面に落ちるのです。

かなり自然な出来具合で、当然のことながら、どの作品も少しずつ違う印象になりました。ほとんどの作品には、空中を舞うにわか雪を表現することができたのですが、ちょっと夢中になりすぎて猛吹雪になってしまったものが数枚できてしまいました。こういった作品は、雪国に住む方たちにお送りしたら、きっと喜んでいただけるでしょう!

さて来月は、ちょっと特別版になります。明治時代から平成に跳躍です!

平成23年1月

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