役者絵

このシリーズ、2作目も「古典」になります。勝川春好(しゅんこう)が1787年にデザインしたものを用いました。絵の中に紋章は見当たりませんが、市川八百蔵の演じる「暫(しばらく)」を描写した作品として知られています。

春好は大首絵を得意としたことで知られていて、彼が活躍した数年後に写楽が人々を驚かせるような絵を発表したのは、春好の絵が「道を開いた」から、というのが最近の研究者たち大筋の見解です。

八百蔵は面白い描き方をされ、見えるのは酒杯の中に映った姿です。絵を見る私たちは、客席で酒を酌み交わしながら演技を楽しんでいると想定しているのです。

この酒杯は当然、漆塗りでしょう。木地の上に漆を何層にも塗り重ねて十分な艶(つや)を出し、しっかり表面を磨いてあります。残念なことに、木版画でこれを表現すると艶は出なく、表面は扁平なつや消しになってしまいます。でも紙の裏側はバレンで擦られているので、光沢があるのです。

昔の職人はいろいろ工夫を重ねていましたが、あるとき誰かが、紙を表にひっくり返して表面から擦れば、その部分に艶が出るということを思い付きました。これは「正面摺り」という手法で、作品を手に取って光にかざすと、杯の朱が光って見えるはずです。

この手法はちょっと複雑です。光沢を出す部分を別の版木に彫るのですが、絵の形そのままを用い、他の版木のように裏の形にはしません。また、紙は乾燥させてから用いるために少し収縮しているので、他の版木よりもほんの少し小さ目に彫ります。

ひと手間余分に掛かりましたが、効果は抜群です!

平成22年5月

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