版画玉手箱 #20


盆栽

この「版画玉手箱」は、実に様々な資料をもとに制作しています。実際の版画、昔の絵本、絵の手本、そして写真まで使ったことがあります。でも、ふさわしい作品選びに「広告」を利用したことだけはありませんでした。ところが今回、紅葉の盆栽を加えることで、これを修正することになります。

明治14年のこと、あるドイツ人が、日本の植物を海外に輸出しようと、横浜で種苗業を始めました。その人が、あるとき、日本で親しまれている花や植木を紹介するために、顧客向けの商品目録を色付きで作ろうと思い付いたのです。そして、このころ外国語で書かれた絵本を木版でたくさん出版していた、長谷川竹次郎に相談を持ちかけました。

こうして、日本の四季の花を紹介した、とても美しい本が— 商品目録などとは、とても呼べません — 明治34年にできあがったのです。「The Favorite Flowers of Japan」と題した本で、挿絵は口絵作家の三島蕉叟が、説明は種苗業者の妻が担当しました。この本は、どのページも、完全に異なるふたつの行程を経て作られています。まず最初に、当時は近代技術であった活版印刷で文章が刷られ、次にその紙(高品質の奉書です)が、伝統木版画の摺師に送られて、絵が追加されました。

この本は、何度も増版されているので、きっと好評だったのでしょう。今日でも海外の古本屋に置かれていることがあり、保存状態の良いものは、かなり高価です。私自身は、イギリスの業者を通じて購入し、この本に里帰りをさせたようで、とても喜ばしい気分でした!

今こうして、手元の本に目を通していると、このような本の現代版が、なぜ版画で作れないのかと思わずにはいられません。解っています... 職人の賃料が発展途上国の水準であったからこそ、できたことなのです。今となっては、みんな裕福になってしまって...

David

平成17年10月31日