版画玉手箱 #21


相撲

今年のシリーズは、残すところ4枚のみとなりました。にもかかわらず、たくさんの版画が仲間に加えて欲しいと叫んでいます!選択にあたっては、みなさんが御存じなさそうな絵師の作をと心掛け、この点ではなかなか上手にやってきたと思っています。今回もそんな例のひとつとなるでしょう。1817年に名古屋で出版された、張月樵作の「不形画藪」という、木版画で作られた絵本のいちページです。この分野の専門家であるジャック・ヒーリア氏は、「日本文化の美について学ぶ学生すべてに勧める絵本である...」と書いています。氏は、限られた紙面に画きたい絵をうまく配置する月樵の能力を高く評価していて、この本については「バランス」という言葉を何度も繰り返して賞賛しています。

私は、この絵をなかなか面白いと思っているのですが、彫の作業をする合間に、この作家について調べていると、ちょっとびっくりすることがありました。たまたま、この本全部の内容を見ることができたので、この絵のあるページを開くと、私が制作しているのは、原作の左半分だけだったのです!けれども、もしこのことをみなさんにお伝えしなければ、「どこかおかしい」とか「何かが足りない」などといった印象は、お持ちにならないはずです。実際、バランスは、...。

それから、こういった種類の絵は「浮世絵」に属さない、という点も強調しておく方が良いでしょう。荒々しい線と大雑把な色付け、同じ頃に作られた浮世絵が非常に制御の効いた技法で表現していたのとは、対象的です。これは、私にとってちょっとやっかいなことでした。長年、浮世絵で鍛錬してきたため、制作中にそういった不備を直したくなるので、「この竹のところにある刷毛筋は、残るようにしていいんだよ」などと、しょっちゅう自分に言い聞かせなければならなかったからです。ですからきっと、どちらの側からも私の作品は最悪と見られるでしょう。良い出来というには正確さや丁寧さに欠けるし、原作の持つ躍動感を伝えるには荒っぽさが足りない、と。

ともあれ、私はこの作品が気に入っていますし、「版画玉手箱」に程よい変化をもたらしてくれた、と思っています。(「ビックリ手箱」と呼んだ方がいいのでしょうか?)

David

平成17年11月14日