版画玉手箱 #11


雨の不二

このシリーズでは、「同じ事を繰り返さない」と決めていたのですが、今回はそれを破ってしまいました。再び葛飾北斎の絵です。富嶽百景の中の第3巻にあり、1849年に出版されたものです。手抜きをして一色しか使っていないなどと思わないでください、ちゃんと4色使っています!

「版画玉手箱」の企画を考え始めると、私はすぐに、版画にある絵は季節の移り変わりと共に進行しなくてはならないことに気付きました。もちろん、どの作品も折々の季節に合わせよう、などとは思っていません。俳句集ではないのですから!でも、この企画を続けていると自然に、1年の巡りを示す作品が並ぶようになってきました。

ここ日本では、はっきりとした季節を表す代表格は花や草木かもしれませんが、その他にも様々な事柄があります。たとえばこの版画、草木などほとんど見当たりません。でも、どの季節かはわかりますよね!

とはいえ、この作品を制作し、収集家の方たちにお送りするこの文章を書きながら、この点に関してはちょっと自分本位かな、と思ったのです。この作品が皆さんに届くのは6月20日、私の住む青梅では梅雨のまっただ中です。ところが、日本の他の地域にお住まいの方たちの場合はどうでしょうか。そして他の国にいらっしゃる方たちは...。

そこまで考えると、私にはどうにも解決策が見当たりません。私の作品を受け取る人たちは、世界中に散らばっていますし、それぞれの方が住む地域の気候に合うような作品を、同時にお届けすることなど不可能です。

そこで、こう考えることにしました。どなたも、24枚の作品を集め終えてしまえば、その次の年からは、作品をどう見るかは持ち主次第ですから、飾る順序は完全にご自分の好みで決めて頂くことができるわけです。たとえば、カナダ西岸の場合は真冬に雨が多いので、今回の版画の出番はその頃になる、という具合にです!(一方、ここ東京に住む私は、この版画をしまえる2週間後が待ち遠しいです!)

David

平成17年6月20日