版画玉手箱 #12


機を織る娘

私達の玉手箱は、尾形月耕の美しく繊細な絵で半ばを迎えます。彼は、「婦人風俗尽」という大版サイズの版画シリーズを画いていて、これは明治25年に出版された作品の一部を、実物大で抜き出したものです。

数週間前のこと、七夕に因んだ作品がないものかと、手持ちの本や版画を見て探していたのですが、どうにも手頃な絵がありません。仕方なく諦め、季節に関係のない作品にしようかと思い始めていた時、自分が所有していることをすっかり忘れていた、月耕の絵を見つけたのです。(手持ちの版画が多すぎるのだと、お思いですか。)七夕とは関係がないようですが、私としては十分にあると思います。きれいな娘さんが、機織りをしているのですから...。

そして、障子戸のところにいる蝶を見てください。ともすれば平凡になってしまう絵が、これひとつで一段と引き締まって面白みのある絵になっています。 見事な一筆!

明治後期には、似たような作風の絵を画く画家がたくさんいて、尾形月耕もそのひとりでした。でも彼らは、江戸時代に出現した大物たちのために存在感が薄く、一般にはほとんど知られていません。私は、そんな彼らの作品にだんだんと心が惹かれてゆくのです。昨年の「四季の美人」シリーズでは、秋の作品が私の大躍進ともいえる成果をあげました。それまでは、明治時代の作品は畏敬の念を持って見るのみで、自ら復刻するなどみじんも考えられませんでしたが、あの作品を無事に完成した時点で、確信を持てました。あこがれの作品を復刻する能力がそなわり、自分で試みることのできる段階に達したという自信がついたのです。

これから先の計画についてお話しするのは、まだ時期尚早ですが、明治時代の素晴らしい作品を復刻したいと熱望しているということくらいは、お伝えしてもいいでしょう。これで、全貌を明かすことにはならないでしょうから。

とにかく、このような蝶があってもなくても、日の目を見る時を心待ちにしている、貴重な版画がたくさんあるのです!

David

平成17年7月4日