版画玉手箱 #9


自転車と少女

前回は、ほとんど季節感のない作品でしたから、この玉手箱のどこに入れてもおかしくなかったでしょう。そしてこの絵も、比較的どの季節にも収まる類いかもしれません。でも私は、爽やかな日差しのある五月がぴったりだと思うのです。

今回も復刻ですが、例によって、原画のまま用いるというのではなく、ちょっとばかり脚色をしています。「吾妻風俗」という、周延が明治34年に画いた大判サイズのシリーズがあり、その中にある絵の一部を切り取ったものです。私は、ずっと以前からこの版画集を高く評価していて、つい最近、インターネットオークションでかなりの枚数を手に入れることができました。そして、入手したばかりの作品にざっと目を通している時、この少女に目が留まり、すぐに「版画玉手箱」に加えようと決めたのです。

当時、この絵を見る人達の注目を集めたのは、きっとこの珍しい乗り物だったことでしょう。でも現代の私達にとって、自転車はもう特別な乗り物ではありませんから、興味を引くのは少女の見慣れない服装の方でしょう!明治後半、このような場面はどの程度一般的だったのでしょうか。若い娘が着物を着て、新奇で風変わりな乗り物に颯爽とまたがっている。これを見た年配の人達の舌打ちしている様子が、想像されます。一方、若者達のほとんどは、きっと新しい文明の利器を進んで受け入れたことでしょう。ところでこの子、ちょっと危ないですよね。着物の長いたもとが、今にも回転する車輪に絡まりそうです。こんなスリルがあるから、乗りたくなったのかな!

いったい私は、この絵のどこを見て、使いたいと思ったのでしょうか。正直なところ、分かりません。以前はよく、東京の版画業者に、私が使えそうな作品を見逃さないよう頼んだものでした。それまでに自分の作った作品を見せておけば、私がどのような絵を求めているか、把握できるだろうと思ったのです。ところがそのうち、こんなことはまるで無意味だということに気付きました。ある絵が自分のアルバムにぴったりと判断するよりどころは、自分自身ですらはっきりしないのですから、他の人に判るはずがありません!

そんなわけですから、できる限り自分で探すしかありません。そして、時には思いがけない掘り出し物を見つける、と信じることです!

David

平成17年5月23日