版画玉手箱 #7


この「版画玉手箱」には、今回で4分の1を超える作品が入ることになります。皆さんの期待にそう作品となっているでしょうか。これまでの作品に、「大物」とされる絵師はまだ登場していませんが、そろそろ皆さんご存知の名前が出て来ても良い頃でしょう。

とは書いたものの、これが良く知られた絵師の作かどうか、実は確信が持てないのです。昔の版元は、絵の作者に関してかなり無責任で、海外の購入者達が現在ほど版画事情に通じていなかった20世紀初頭には、特にそれがひどかったのです。版元は、どんな絵が売れるか否かを予測することはできたでしょうが、風景画なら「広重」という名を職人に刻ませれば、より一層売れ行きが良くなる事は確実でした。広重は遥か以前に亡くなっているのだから、どうでも良い事だと...。

葛飾北斎の名前も、こういった理由で無頓着に使われることしきりでした。ですから、実際に北斎作かどうかを、鑑定しなくてはならない版画や肉筆画がたくさんあって、研究者達の間では頭痛の種となっています。

何年か前に、ある店で見つけた鯉の版画に北斎と名前が入っていましたが、事実かどうかは首を傾げるばかりです。ともあれ、来週にはこどもの日があります。鯉はこの日のシンボルですから、この中の一枚を使うことにしました。たまたま見つけた絵を拝借するのは、昔の版元だけとは限りません。私が手に入れた版画の著作権は、とうの昔になくなっているので、絵の一部を使って自分なりに編集してみました。水草の中を漂う鯉を取り出して宙に置き、墨流しの模様を背景にあしらったのです。鯉のぼりが空中を泳ぐのに似ていませんか。

ところで、北斎の名前ですが、これは書かないことにしましょう。彼が画いたもとの絵などほとんど残っていないか、あるいはまるでないのかも知れませんから!  

David

平成17年4月25日