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... 販売の予約に関して、よくある質問 ...


'画廊にて-その2'

(つづき ...)

 ゲスト:ブルさんに、また質問なんですけど...

デービッド: はい、どうぞ。

ゲスト: さっきは、お話できて良かったです。作品を楽しませていただいているんですけど、あの着物を着た女性の絵がとても気に入ったんですよ。家の居間に飾ったらしっくりくると思うんですが、一枚だけ譲っていただけないでしょうか?

デービッド: あのう、気に入っていただけて嬉しいのですが...

ゲスト:在庫がないんですか?

デービッド: いえ、そうじゃなくって、在庫はまだあるんですが ...

ゲスト: どう言うことなんでしょうか?よくわかりませんが、なんとか一枚だけ販売してくれませんか?

デービッド:大変申し訳ないのですが、それはできないんです。

ゲスト: どうしてですか?さっきの会話でなにかお気に障った事でもあるんでしょうか?

デービッド:いえいえ、そんなことまるでありません!お話は楽しかったんですから。そうじゃなくって... 私は決して一枚売りはしないんです。ずうっとこの方針できましたから。

ゲスト: 百枚全部買えとおっしゃるんですか?そんな無茶苦茶な!

デービッド:おっしゃる通りかもしれませんが、とにかく 単体売りはしないんです。購入はすべて予約制で、「百人一首シリーズ」は、今では全セットだけ、「摺物アルバム」の方は、セット単位(10枚)でお願いしているんです。

ゲスト: そうか、じゃあ少なくとも10は買わなくちゃならないって訳か...。それにしても、一体どうしてそんなこと決めたんですか?

デービッド: そうですねえ、色々訳があって、話すと長くなってしまうんですが。ま、一番の理由は、私が身勝手だからでしょう。自分の作品に愛着がありすぎて、一枚だけポツンと壁に掛けられて、装飾品にされちゃうのが嫌なんですよ。

ゲスト: ああそうか、僕が居間の壁に掛けると言ったからか!

デービッド: いや、実のところ、そうでなくてもきっと答は同じだったと思うんです。この仕事を始めてから変えない方針ですから。でもこれが良い例でね、もしもお客さんが一枚買って持ち帰ったら、きっと額に入れて壁に掛けると思うんですよ。最初の日は目新しくて何度も立ち止まって見るでしょう。そして、手に入れたことに満足すると思うんです。そして次の日もね。

でも、暫くしたらどうなると思います?予想できるでしょう?数日...... 数週間..... だんだん視界にあることが意識されなくなり、そのうち壁紙の一部になってしまうんです。私だけでなく、20人程の人達の手が加わってやっとできたこの作品が、壁紙の一部になって埃にまみれちゃうんですよ!

ゲスト: 20人程もの人達? どういうことですか?この版画は、ブルさんがお作りになったんでしょう?

デービッド: そうですよ。僕が彫って摺ったんです。でもね、版木を使えるように処理してくれた人、和紙を作ってくれた人、バレンを作ってくれた人、刷毛を作ってくれた人、....数えれば切りのないほどたくさんの人の協力が陰にあるんです。

ゲスト:そういうことだったんですか。おっしゃる事がやっと分りましたよ。 でも、そういう材料を提供している人達は陰で貢献しているけれど、これはブルさんの作品であって彼等の存在は出来上がった版画には見えないですよ。

デービッド:ガラス付きの額に入れて、壁に掛けてしまえば見えないでしょう!でもそれは本来の版画の見方ではないんですよ。もしもお客さんがそうしても、この絵を描いた絵師はもちろん嬉しいでしょうがね。絵その物の形ははっきり見えるんですから。でもその他の仕事は隠されちゃって無駄になってしまうんですよ。そんなことをしたら、ポスターと変わらない。でもね、もしもきちんと正しい見方をすれば、ひとつの作品の持つ深みが見えてきて、それは生き生きとしてくるんですよ。貢献した人達の努力が現れてきますから。

ゲスト: 正しい見方って?

デービッド:単純です。版画が日常のものとして楽しまれた時代と同じ見方をすればいいんです。天井の電気を消して、ガラスなんかはめないで、版画を手に取ってください!触ってみてください!窓辺に行くか、スタンドの近くに行くかして、光りが横から当たるようにしてください。そうすると、紙の質感が見えてきて... 摺られた立体感も見えてきて.... そうしてはじめて本物の版画を見ることになるんです。

ゲスト: わかりました。簡単に言えば、壁に掛けられちゃ嫌だから一枚ずつは売らないってことですよね。でも、まだちょっとそこのところの繋がりが分りかねるんですよ。セットで買っても、お客さんはきっと壁に掛けると思うんですがねえ。

デービッド: ええ、そうなさる方はいらっしゃいます。版画は差し込み式ですから、簡単にはずして毎月一番新しい作品と取り替えて楽しんでいらっしゃる方が結構多いようです。あまりして欲しくないんですが、仕方ないと思っています。私がこういった販売の仕方をするのには、この他にも理由があるんです。

もしもですよ、もしも一枚ずつ売っていたら、今ここで私達がしているような会話はしなかったと思いませんか?みなさんが毎月一枚ずつ受け取るというシステムの為に、毎回包みを開いて私の書いたエッセイを読んでいただく事になります。季刊誌も年に4回お届けします。私はいろいろな事を書きますから、1年が過ぎるうちに、少しずつみなさんが私の気持ちを理解してくださるようになるのです。読みながら他の職人さん達の事も知るようになるし、私が版画を作りながら経験することも書くので、しだいに私の考え方が分ってくるのです。単なる絵という枠を越えて、版画そのものが、美しさを備えた鑑賞物であるということも分ってきます。一枚だけ買ってここから出ていってしまえば、このようなことを知るチャンスはないのです。

ゲスト: なんだかすごく理想的に聞こえるなあ。じゃあさっき、どうしてこの考え方を身勝手だなんていったんですか?

デービッド:ここで話をやめてしまったら、私は正直とはいえなくなるんです。そう、営業上の問題も絡んでいます。

私は版画の製作に専念したいので、展示会は1年に1回だけにしたいのです。展示会をすると、準備やら後片付けやらで、ほぼ一月は仕事ができなくなりますから。営業も含めて、何から何までほとんどひとりでやっていますから、この1年に一度の展示会で出会える人達にじっくり、メッセージを送り続けることができることになります。

ゲスト: う〜ん、よく考えられているなあ。わかってきましたよ。丁寧に説明してくれてありがとう!
僕、来年も来ますね。案内状を楽しみに待っていますよ。

デービッド:いやあ、こちらこそ。お話ができてよかったですよ。御希望に添えなくてすみません。

ゲスト: じゃあまた!

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