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文字通り『摺られた』『物』ですが、日本の木版画の中の、ある特定の種類をさしているのです。よく知られている浮世絵は、一般大衆への普及をめざして生産、販売されたものです。でも摺物は、個人的な贈り物にしたり、宣伝用にしたりして、一般向けに販売された物ではなかったのです。
摺物の典型的なタイプは、このようなもので、たいていは絵と狂歌が描かれています。たいていは、歌の作者の注文で作られ、その仲間の間で交換されました。 売ることが目的ではなく、純粋に風雅を楽しむための物ですから、金銭に糸目を付けることがなかったんですねえ。屈指の絵師に絵柄のデザインを頼み、腕利きの職人が選ばれ、最高級の和紙と顔料が使用されました。たいていの摺物の大きさは比較的小さく、19cm×21.5cm の標準サイズです。
こういった摺物は1760年代に始まり、その後、百年ほど人気が続いたようです。摺物にするデザインは、この時代の有名な絵師に頼むことが多く、絵師の中にはそれを本業にする人も出てきたようです。絵の題材としては、歴史上の出来事、自然、静物、歌舞伎役者などが多く使われています。
以上が摺物についてのあらましですが、私の摺物アルバムはそういった作品の復刻になるのでしょうか?うーん、そうかもしれないし、違うのかも... |
| 百人一首の復刻を手掛けてきて10年、それが終わりに近付いた頃になると、その後の課題となりそうな作品がたくさん目に付くようになりました。世界中の美術館に、計り知れない数の見事な版画が保存されていて、再び日の目を見るのをひたすら待っている。こんなことも気になりだすと、魅力的な版画があり過ぎて、どれを選んで良いのか困ってしまうほどでした。手掛けたい作品はあまたとあるのです。 |
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私は、実物も含めて、版画集や版画の歴史の本をたくさん見るのですが、気付いてみるといつも、摺物に心が戻ってしまうのです。切れ味の良い彫り、筆舌に尽くしがたいほど優美な摺り。自分の腕でこんな版画を作ってみたい! やがて、気に入った摺物に関してはどん宸ネ情報でも集めるようになると、たちまちかなりの量になってしまいました。こうして集まった作品に共通するのは、単に自分が気に入ったという理由だけで、その間には、なんのテーマも繋がりもありません。すっきりしていて明瞭な図柄があるかと思うと、複雑で再生にはなかなかの技術を要するものもあります。
また、気に入った絵が、すべて摺物というジャンルの定義に属するかというと、そうとも限りませんでした。たとえば、本の挿し絵に使われた物だと、個人の出版物ではないという点から、この定義にあてはまりません。でも、その美しさ、味わいの深さという点からすれば「摺物」とみなしても良いのではないかと、私なりに思い始めたのです。 こうして集めた版画の中から、気に入ったものを10枚ずつ取り出して並べ、自分自身の「摺物セット」として出版してみたら.....。今まで「百人一首シリーズ」でやってきたように、ひと月に1枚作って、仕上がる毎に、版画愛好家や収集家に一枚ずつお送りしよう。(1セットを収められるホールダーを初回に差し上げよう)年に一度の展示實焉A今まで通り1月に開いて、僕の作品を多くの方に見て頂こう。 これは、考えれば考える程妙案だと思えてきました。過去 10 年間は、勝川春章の描いた百人の歌人を再生すれば良いという明確なテーマがありましたが、今は、新たなテーマを決める時です。新しい意味での『摺物』を作ってそれを普及させることによって、版画がどんなに素晴らしい物なのかを人々に知らせるために。 さあ、私の「摺物アルバム」についての説明はこんなところです。今こうしてこれを書いている1998年の秋、私の最初の版画シリーズが幕を閉じようとしていて、1月の完成展示会が間近に迫っています。ひと騒ぎが済んで静けさが舞い戻る頃、私はこのアルバムの第一作に取り掛かることでしょう。 摺物は18世紀と19 世紀に全盛時代を向かえ、その後、この様式は廃れましたが、作品のなかにはまだ息遣いが感じられます。でも、摺物は手軽に作って販売ルートに載せるような代物ではなく、限られた趣味人だけが楽しむもの。 そしてここに、『摺物大好き人』がいます。さあ、このサイトを存分にお楽しみください。 |
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