あとがき このアルバムも終わり、これで5集が完成したことになります。「摺物アルバム」の企画を開始した5年前には、どのくらい続き何集できるか、皆目わかりませんでした。正直なところ、最初のアルバムを開始してからでさえ、計画に入れている作品を制作できるという強い自信があった訳ではないのです。それまで、版画制作の面では「百人一首シリーズ」を完成させるのに手一杯、それ以外の版画を手掛ける経験などほとんどなかったからです。 「摺物アルバム」は、この経験不足をなんとかしたいと考えて思い付きました。作りながら、日本の伝統木版画の面白い側面をたっぷり追求していけるような企画です。素晴らしい版画はあまりにもたくさんある...優れた技法は山のようにある...どれもこれもが私に見い出されるのを待っている! 予想を遥かに上回る成功でした。5年前に自分がどう考えていたか、はっきりとは覚えていませんが、もしもあの時、私が最近制作した何枚かの版画を見せられ、その程度の物がすぐに作れるようになると言われたとしたら、おそらく信じあぐねたことでしょう。でも5年後の私が今ここにいて、たくさんの版画があります。生産的かつ教育的な年月であった証です。ここで当然、「自分はこれからどこに向かうのだろう」という次の疑問が生まれる所ですが、この企画はまだ終わっていないというのが、すぐ出る答えです。今年は、調整をするために別の企画になりますが、摺物アルバムのシリーズは必ず継続するつもりです。このシリーズは、私達双方の要求を完璧に満たすのですから。つまり、版画家の私にとっては自分の技術を向上させる場となり、受け取るみなさんは飽きることも落胆することもない収集ができる(と願います!)のです。 摺物アルバムは、必ず戻ってきます! 日本が西洋に門戸を開放して以来、日本の版画に興味を持つ西洋人はたくさんいました。いろいろな国の人がやってきて、彫刻刀とバレンを手にして版画を作っています。ところが、1人の例外を除けば、誰もがアーティストとしての視点で版画を作っているのです。自分が面白いと思う対象を画き、版木を用意して絵の形を彫り、木版画を作ります。私がこうして書いている現在、少なくとも6人はそのような作家が日本にいて、その作品の中にはかなり面白くて魅力的な物もあります。「1人の例外」とはもちろん私のこと...アーティストとしての視点を取らず職人に徹しています。どちらの生き方が良いのでも悪いのでもありません。双方が共に存続することは可能ですが、私にはどうしても答えられない疑問がひとつだけあるのです。なぜ私ひとりだけなのでしょうか?なぜ私と同じ事をする人がたくさん出てこないのでしょうか?
他の分野を見れば、古楽器・活版印刷・船作りなど、昔そのままの技術を学んで修得しようとする人達がたくさんいます。多くの場合、同じ事をする人がたくさんいるので、会を設立して世界規模で交流をするほどです。
それなのになぜ、私の他に日本の伝統木版画の復刻に興味を持つ人がこの地球上にはいないのでしょうか。伝統木版画は、外国の人達にとても喜ばれていますし、日本の文化全般に心を惹かれる人達は世界中にいます。このふたつの事実を考えても、私と同じ事をしようとここに向かってやって来る絶えまない人の流れがあってもよさそうなものだと思うのですが。イタリアで古典的バイオリンの製法を学ぼうとする日本の若者達がひとつの流れを作っていますが、逆の流れが日本の伝統木版画に向かうは事はまるでありません。
私はこの状況を喜ぶべきなのでしょうか、競争相手がいないのですから!でも本当のところは、この分野に入ってくる人達がいれば大歓迎なのです。マラソンはひとりでもできますが、足音が後ろから聞こえ、それが近付いてくる状態とは大きな違いです。
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向かいのページに、1年間私を支えて下さった方々の名前があります。みなさんありがとうございました!このアルバムを大切にして、御覧くださる皆様の楽しみが、私の制作に携わる喜びと同じでありますように。
平成16年4月 |
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