あとがき 私達は、今「摺物アルバム」第4集の終わりにありますが、このアルバムを始める以前の「百人一首シリーズ」も加えると、版画10枚毎からなるアルバムが、総計14册になります。この14年間、どの年も同じ経過をたどってきました。1月の展示会で前年の作品を展示、次に続く1年のアルバム予約を受け、残りの月は10作品の制作に没頭、という具合でした。 これは、とても良い具合でしたが、この頁の最後にある日付けを御覧になるとお分かりのように、近頃はアルバムを日程表通りにきちんと作って行くことが難しくなってきています!百人一首シリーズの頃は、だいたい予定通りに進んでいました。版画ひとつ当たりの色数は平均して8〜9色、版毎の摺数は100枚、計画に沿うことはそれほど大変な事ではなかったのです。でも、新しく始めた摺物アルバムは、平均でも13〜14色、作品毎に摺る枚数は2倍の200枚、状況は厳しくなってしまいました。それに加えて、繊細な線をたくさん彫らなくてはならない絵が多く、これは必然的に掛かる時間の大幅な増加をもたらしたのです。ですから、こういった実情を考慮すれば、アルバムが2ヶ月しか遅れていないのは、さしてひどい状況とも言えないでしょう。とはいえ、「1年にアルバム1冊」という方針は是非続けていきたいので、計画がこれ以上ずれてしまわないように、できる限りの努力をするつもりです。 作品がお宅の玄関に届くまでに時間が掛かり過ぎて、がっかりなさることのあった収集家の方々には、この言葉を捧げることしかできません。これは、ニューオーリンズにあるレストラン・アントワーヌのメニューの最初に書かれていました。 * * * 「点描法」という、無数の彩色点で描かれる絵画手法を御存知ですか?キャンバスの近くに立つと、ひとつひとつの点が独立した個体としてはっきり見えるだけですが、離れて眺めると、絵の形が見えてきます。私は、自分を「点描法画家」のような存在だと思いたいのです。私のキャンバスには、今40の点が出現しました ... 摺物アルバムの40作品です。後ろに下がったらはっきりしてくるはずの絵が見えますか? 摺物アルバムを始める前の10年間、私のテーマは単純でした。勝川春章の百人一首を完成させれば良かったのです。でもそれは、私の見習い期間のようなものでしたから、ひとたび企画が終了すると、次は、木版画がどんなに素晴らしい物かを世界中に伝えるという、より幅広いテーマへの取組が始まりました。そして、その課題こそが、月毎・年毎、キャンバス上に点が蓄積して見えて来る絵であって欲しいのです。 私の描く点のひとつひとつ、どれもがきれいだとお思いですか?恐らくそんなことはないでしょう。この子達全てを愛するのは、その父親だけであって、他の人達には、気に入る作品とそれほど好きになれない作品とがあるはずです。でも、私は真剣に点描法になぞらえて考えています。日本の伝統木版画の世界はとても奥が深く、変化に富んでいますから、見る人の心に「完璧」な像を造りあげるためには、長い時間が掛かります。物凄い数の点が必要となるでしょう。もちろん、像が「完成」するなどということはないでしょうが、これから先何年も、その像を描きながら素晴らしい時を過ごしていくつもりです...1点そしてまた1点! このアルバム制作に御協力くださいましたこと、心から感謝申し上げます。作品を大切にしていただき、私の作る喜びに勝るとも劣らない愉しみを、御覧になる度に感じていただけますように! 平成15年2月 * お料理には時間が掛かります。お待ちになれば、それだけ優れた料理が饗され、きっと御満足なさることでしょう。 |
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