「自然の中に心を遊ばせて」 : 第一章 : 夏の川
「一連の小さな冒険物語を書き始めるのに、自分の思うように場所をデザインするとしても、これ以上うまくはできないだろう。谷は深く、壁面は急傾斜でこんもりと木が茂っている。空を見渡すには、大きく首を傾けなくてはならないほどである。目の前の川は、歩いて通れるほどの浅瀬もあれば神秘的なまでに深さをたたえているところもある。緑に覆われた谷の壁面に沿って、様々な姿を見せながら流れている。緩やかになったり急になったり、のらりくらりしているかと思えば荒々しくもなる、というように。対岸には、砂利が幅広く堆積して土手を作っている。おそらく台風の季節に流れが運んで作ったものだろう。一方、私が今立っている側は様相がまるで違う。大きな石ばかりで、丸みをおびているのもあるし、崖から崩れ落ちてきたようなのもある。こうした岩がゴロゴロしている間に、かろうじてテントを張れる程度の小さな平地があり、どうやらキャンプをするにはピッタリな場所らしい。湿気を避ける程度の高さはあるし、夜中に倒れ落ちてくる危険性のある古木が頭上ではためいているわけでなし、しかも、両側にある大きくて角のとれた石が風を遮ってくれそうだ。また、なによりご機嫌なのは、僕の方向感覚が川の湾曲でずれたりしていなければ、早朝の太陽が真っすぐテントに降り注ぐはずという点である。 」