デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

41号から最新号まで

1号から40号まで



Categories:

何故、木版館

最近耳にするのですが、日本国内の会社が方針を変更して、より海外のようになってきているというのです。もしもアメリカで、ビジネスの目的を問えば、「株主に利益を還元すること」という答えが返ってくるでしょう。投資家は資本を提供する代わりに、利益を還元することを要求します。従業員を雇い、商品あるいはサービスを提供し、それを市場に送り出す。ビジネスの活動全てが、目的を達成すべく貢献するのです。

一方日本の企業は、伝統的に異なった概念を持っていました。投資家に利益を還元するという考えは本来の目的の中になく、従業員や客や社会の立場を優先するというのが、一般の理論でした。

木版館には、私以外の投資家が存在しないので、上記のように相反する運営方針のバランスに臨機応変な対応をすることができます。ここで私の考えを大まかに示してみましょう。私の脳裏にある木版館事業の「原理」を、優先順にいくつか記述してみます。

1)この組織が存在する基本理由は、ここで働く人達が生活の糧を得る道となることだが、その方法は、彼らが生きる意義をより深めるような方法でなされること。

そう、ここが大事なのです。自分自身と従業員達を、顧客や利益やその他の何よりも優先すること。ここを読んで気を悪くしましたか? とにかく、続けて読んでください&#...。

2)「従業員に生きる意義」を提供するためには、この組織の活動が、社会に価値ある物を提供するという本質を持たなくてはならない。つまり私たちは、自分が消費する以上のものを提供できれば良いのだ。もしも、今まで存在しなかった場所に、美と価値を作り出すことができるのならば、手に入る資源(地域と地球規模の両面から)を活用して、有意義な方法で実行する。こうして、この活動を始める以前よりも良い方向に環境を変えることができれば、私たちの人生は意味のあるものになるだろう。

3)...

「3」は存在しません。投資家への利益還元は? そもそも利益は存在しません。利益を生み出す事ができないと言っているのではありません。利益を取ってしまう存在がないという意味です。短期的には、収入の全てが事業の運営資金や従業員への支払いに回ってしまうでしょう。でもいつか「純利益」を生み出せる程度に事業が成功するはずで、もしもそうなれば、その資源は企業運営に回されることになるでしょう。新企画を開始したり、もしもこの地域に大震災が起きたら営業停止の事態は避けられませんし、事業拡大のための資源獲得も必要です。収益の使い道は限りなくありますが、「投資家」への還元金は皆無です。

現在のところ、木版館の法的分類は個人事業です。私がすべてを所有し、責任のすべては私にあります。事業が発展して、たとえば「会社」のように、より公式の営業形態に変更する必要が出て来たら、組織はもう私の所有物ではなくここで働く人達の物になります。私たちがその段階に達する時には、私の収入は「株主」としてではなく、自身がバレンと彫刻刀で働いて得た分になります。

現実を見れば...、なんたる「大風呂敷」! まだまだ手と膝で這い回っているような状態で、2本の足で立ち上がることすら出来ないというのに! でも、開始時点で将来の展望をしっかり持つのは、とても大事なことだと思います。実際、すでにこの哲学は日々の決断に影響を与えています。たとえば、あるひとまとまりの版画を摺るときに、「販売可能」として決断するか(私たちは利益が必要です!)、あるいは「ただ練習用」として考えるのか(プレッシャーを受けずに練習できる環境を作り出す)。

ここまでお読みになれば、私の経営方針が典型的な西洋方式でなく、より日本的である、という印象をお持ちになったと思います。でも、私が望む職場環境は、自身が今まで見てきた、どの日本の会社とも大きく違っています。この工房に来てドアーを開き、一歩中に入ると、みんなが楽しそうにしている様子を見られますよ!

コメントする