デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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木版館

伝統的な手順で木版画を制作して、それを出版する事業、ちょっと考えると極めて無謀なことに思えます。材料も道具も手に入れるのは難しくなっていますし、おまけにもの凄く高価です。必要な人材が得られる組織などありませんし、人件費も随分高くなっています。そして市場は(今までもずっとそうでしたが)かなり縮小しています。

それなのに何故? 理由は単純明快。私自身が版画好きで、自分の作品を通じて知り合った多くの人たちが、努力に見合う「何か」があるという見解に同意しているからです。現代に生きる私たちは、すぐれた近代的技術に囲まれて暮らしているので、敢えて昔の物作りを保存する「必要性」など云々する理由はありませんが、私は版画が面白くて簡単に諦められないのです。

この写真を見て下さい......。こんな思いを持つのは、私だけではないのです!木版館の企画に参加している「仲間」をご紹介しましょう。(この人たちは、もちろん私の「従業員」ではありません。独立した職人です。)この写真に写っているのは、研修中の彫師である佐藤典久さんと摺師の鉄井裕和さんです。私たちの前にあるテーブルの上には、木版館の新企画である千社札の最初の1組を作る色分けがあります。この企画の簡単に説明しますと、昔の千社札という形式を取った、小さくてきれい、かつ魅力的な版画です。ほぼ100年前には、コレクションとして集めて交換したりする人がたくさんいました。[注文ページは、ここにあります。]

2人ともちょっと複雑な思いはあるようですが、とにかく彼らがこの冒険的な事業に協力してくれるのはとても嬉しいことです。私が自分でできる仕事だということは、2人とも知っています。それなのに、どうして他の人を雇うのでしょうか。

明らかな理由は、他の人に協力してもらえば、ひとりでするよりもずっと多くの製品を作れるからですが、別の理由は、数ページ前に説明したことに関連しています。版画家としての自分の将来を考えるからです。次の想定のどちらが道理にかなっているでしょうか? 80才のデービッドがひとり工房にこもって作品を作り続けるのか、あるいは、その「老人」が知識と経験を使って大量の美しい版画を制作する「陣頭指揮」をとるのか。後者の場合には、若くて意欲的な人に仕事を提供することができます。

遥かに楽しいのはどちらか、私は分かっているつもりです。私がこのような将来を望むのなら、自ら行動を起こさなければなりません。なぜなら、自然に「そうなる」などということはあり得ないからです。しっかり考え、......それから行動に移す......。

ここでひとつ、はっきりさせておかなくてはならない点があります。私自身で制作する版画についてです。「美の謎」シリーズがその例で、「せせらぎスタジオ」という出版名で制作している版画はすべて、彫りも摺りも私がしています(これからも続けるでしょう)。鉄井さんや佐藤さんは、一切手を出しません。私は自分の腕に誇りを持っていますし、せせらぎスタジオから発する作品には誰にも手出しをさせません。

ここでもう1人ご紹介しましょう。若手の絵師である関香織さんです。「美の謎」シリーズを集めていらっしゃる方は、すでに彼女の作品をご覧になっていますが(浦島太郎は彼女が描いた絵です)、他の方たちは千社札を手にするまでお待ち下さい(ご注文くださいますよね)。彼女は今年、千社札の四季(毎回3枚)をすべて描く約束をしています。

香織さんは美術に関心を持つようになった時から、浮世絵の勉強を続けているので、作品にその影響が反映されています。彼女の作品集を見ると、素晴らしい木版画になりそうな絵が、私には使い切れないほどたくさんあります。2人が共に進めばきっと良い将来があることでしょう。

以上が、私たちの制作「仲間」です。みんな若くて、とても意欲的です。彼らは、田内陽子さんの支援を受けながら新千社札を「作り上げて」いく事でしょう。田内さんについては、数年前にこのニュースレターでご紹介した方で、この企画の書を担当してくださっています。現在のところ、経営側に属する職員は私だけですが、次の号で「募集」記事を掲載するかも知れません。(これは、あながち冗談ではありません。新事業に必要な費用を捻出するためには、自分自身の制作を中断なく継続しなくてはなりませんが、両方を同時進行させていくのは物理的に無理なのです!)

これで、「誰が何を」木版館から出版するかについて、御理解いただけたと思います。小さな千社札を何枚か出版するなど、たいしたことではありませんが、とにかく始めなければ先がないのです。私たちが魅力的な商品を作って、それが人々に愛されるのならば、そこから道が開けるはず。次なる発展をお知らせする、このコーナーをお見逃しなく!

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