デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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必殺技

部屋の中にハエが侵入、あるいはゴキブリ発見。さあどうする?私は数年前に身に付けた必殺技で対処している。

それはニュージーランドにいる友人を訪ねた時だった。ダイニングにハエが多い。一様客人なので、最初は遠慮していたのだが、どうも気になる。住人に聞くと「そうなのよ、外から入ってくるの」と広く開け放ったバルコニーへ続くドアーを見つめる。初夏の心地よい風が流れてきていた。

「この人なにも対処しないんだ〜」と思った私は、我慢ができなくなって近くにあった古新聞を丸めて、ガラスに止まっているヤツをポンと叩いてみた。すると、失神したらしくポトリと落ちた。そこをすかさずティッシュでつまんでポイ。これに味を占めて、次々と止まっているヤツをやっつけた。失神とまでいかずに、動転して落下したまま足をバタバタやっていることもあるが、この状態なら処理は簡単である。強すぎず弱すぎず、相手が飛べなくなる程度に叩いて衝撃を与えるのが極意。

こうして身に付けた「技」はゴキブリにも応用できる。ゴキブリはどんなに清潔を心がけても外から侵入してくるので、私は家中のあちこちにホウ酸ダンゴを置いている。だから、見つかるヤツはたいてい動きが鈍っているのだ。「殺さず生かさず、失神させる!」と唱えて、一撃に全神経を集中させて隠れた場所を襲撃すれば、90パーセントは固い。

かく言う私だが、以前はこんなこと、とてもできなかった。歓迎しないムシどもの侵入に遭遇すると、悲鳴を上げて助けを求めるだけだった。ゴキブリなど見付けようものなら体中に鳥肌が立ち、手が震えたものである。だが、頼る術がなくなったその日から私は強くなった。逃げから攻めの姿勢に変身し、背水の陣と構えて「必死」の覚悟でやっつけようと敵を追いかけた。ほとんどは、逃げられたが。

目下私はこの技を娘に伝授すべきと、張り切っている。だが、人間というものは、頼るもののなくなる時まで心の切り替えはできないものらしい。出産後、頻繁に孫と来ている娘が、ゴキブリを見付けて大声で私を呼んだ。もちろん「機動隊」は即任務を果たしたが、実演したところで娘は自ら手出しする気は毛頭ない。自宅ではどうしているかと聞くと、夫のいないときは見過ごすそうだ。

技の伝授はそれを求める相手あってのことと実感するが、はて、デービッドは磨いた腕の伝授をどう考えているのだろうか。

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