デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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収集家から

前号でみなさんに、完成した「自然の中に…」シリーズへの感想をお願いしました。その中から二つをご紹介します。収集歴の長いおふたりです。

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マーク・ロバーツさん

「自然の中に…」シリーズの開始を知ったとき、これは収集しなくてはと思いました。このシリーズに出てくる場所は、日本滞在中に得た大切な思い出と合致していたからです。

私がデービッドの作品を収集し始めたのは、カナダから東京に赴任していた1990年代初期です。たくさんの人が賑やかに活動するハイテク産業の盛んな東京は、カナダの小さな町から移ってきた当時の私にとって、かなり重圧がありましたが、木版画などの日本の文化を学んだりするのは楽しいことでした。しかも、こういったことについて母国語で話のできる人と知り合えて、とても嬉しかったのです。

赴任して2年目になると、ほぼ毎週末、町の裏通りを歩いて工芸家の店を覗いたり郊外に足を伸ばしたりして、日本での滞在を楽しむようになりました。そして、私の「独り居の場所」を見付け始めたのです。あまり人の来ない公園や庭園、日光の森の中にある神社、そして友人の山小屋近くにある天然温泉や滝などです。

ですから、デービッドの「自然の中に…」は、日本滞在中に私が最も楽しんだ日々を思い出させてくれたのです。彼が観察したことや感じた事を読むと、私自身が日本で味わった美しい自然の記憶が、彷彿としてきました。多くの日本人は、郊外に広がる自然の良さや、あまり人の行かない道を歩いて、次の角を曲がったら何があるだろうかとワクワクしたりする楽しみを知らない、といつも思っていたのです。都心のオフィス街であっても、あまり開拓されていない「自然」の残された場所や、大都会の喧噪から少しの間逃れられる静かな公園や庭園を見付けたりすることは可能でした。デービッドの「自然の中に…」で書かれた話は、手軽に行けるたくさんの場所への短い旅のことを詳細に記述しているので、こんなことを思い出したのです。

版画を鑑賞しながら話を読んでいると、いつの間にかデービッドのいる場所へと引き込まれていきます。また、話を読むことで版画が生き生きとしてきます。彼は、日本の都市部の風景が異常であることから生じる利点と争点についても言及しているので、読者は残されている自然への感謝の念を新たにすることでしょう。

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有城 重良さん

暑さが身体をいじめる季節に突入しようとしてますが、相変わらず忙しくしてるようで、ブルさんのエネルギーは原子力なのかとも思ってます。

長い「自然の中に心を遊ばせて」 私は山の中で一人では怖くてキャンプが出来ないので、毎回ブルさんの勇気と細やかな観察力にヒヤヒヤドキドキしたもんです。

そして版画家に対してまことに失礼ながら、版画をみるのを忘れるほど文章に入ってしまったりもしました。

オリジナルのブルさんの版画の弱点は地味だと言う事が出来ると思いますが、そこがブルさんの芸術的センスであり、派手な売れるパホーマンスばかりしてる有名な版画家と違いブルさんの版画は、殆ど誰も気がつかない題材を探しだし、それをみごとな作品にして我々のもとに届けてくれる、そんな繊細で誠実なブルさんの仕事を私はいつも楽しみにしてます。

値段に対するブルさんのこだわりも、私にはありがたく、これがブルさんの作品の値段か? と聞かれたら「ノー」としか言いようがありませんが、「得をした」そんな密かな楽しみをブルさんからの小包が着くたびに感じてるのも私一人ではないはずです。手持ちの作品の完売を心より祈ってます!

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