長く生きていると面白い。世の中の変化をこの目で見ること、家族の成長を見守ることはもちろんだが、自分自身の価値観、世界観、人生観が移ろって行く様子が興味深いのだ。
私の趣味のひとつに庭仕事がある。などと言うとかっこいいのだが、正直に言えば、ちょっと広めの庭を持て余し、草むしりに追われる逃げの体勢から攻めに廻ってみただけのこと。植木屋さんに無理を言って、木を移動してもらったり花壇を作ってもらったりもしたが、ほとんどは自力で開墾してきた。時には古い土台が出てきたりするので、ツルハシは必須用具である。
枕木の通路やレンガ敷きのパティオはデービッドに作ってもらった。材料を日曜大工店から運ぶために、生まれて初めて軽トラックの運転も経験した。また、彼の作った雨水樽はピカイチで、一年を通じてほとんど水道代なしで庭を維持できる優れものである。読者には容易に想像できるだろうが、いい加減な仕事ができないといった欠点を持つ彼の仕事は、どれも正確。どの「作品」も問題なく良い状態を保っている。
開墾当初は、ガーデニングという言葉に浮かれて、日向の植物や日陰の植物と植え場を選び、珍しい品種を漁ったりもした。だが、なんだか場違いな場所に植えられたように虚弱な花を咲かせる種類には、やがて魅力を失い、強健な品種や在来種に心が引かれるようになってくる。そして昨年あたりから、野菜を作りたくなってきた。花より団子である!
となると、白羽の矢は南面を覆う芝生に向かったのだが、私に二の足を踏ませる要因があった。それは、デービッドである。彼が我が家に来ると、すぐサンダルを脱ぎ裸足で芝生の上を歩く。「日本の芝生は固いね」と言ったことはあっても、グリーングリーンと喜ぶ。そして、その「グリーン」を剥ぐ話をすると、一瞬にして顔が曇った。はて、はて、……
そこで私の背中を押したのが、続出する食品偽装ニュース、続いて石油高騰・物価高。もう子供の言うことを聞いている場合じゃないと判断し、芝生めくりを始めた。汗だくになりながらターフカッターに足を載せて地面に刃を食い込ませていると、あることを思い出してはっとした。母がちょうど私くらいの年齢の時にまったく同じことをしていたのだ。
「やあねえ、せっかくきれいな緑なのに。どろんこの畑にしちゃったの〜!」とは、私の言った台詞である!
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