デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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「消臭ブーム」

近頃、消臭を目的とした商品の宣伝が多い。定期的に接種し続けると、体からバラの香りがする?ま、お好きな人はお試しあれ。ニンニクを食べたら一粒ポイ、ま良かろう。だが、これも行き過ぎるとどうなる?

先日の事、コマーシャルの時間になったら、 テレビの画面一杯にスプレーを持ってシュッシュッとやっている場面が映し出された。お肉を焼いたら家中にシュウシュウ... お客様が来る前にもシュウシュウ... お父さんが帰ってきたら玄関に飛び出して行き背広にシュッ。ウールはタバコの臭いを吸収しやすいから分かることは分かるのだが...。 おまけに、訪ねて来た人たちが「この家臭わないわね」とやっている。

不快臭と共にぬくもり臭までもが消されてゆく感覚がリアルに感じられ、見ている自分が抹消されそうな恐怖を感じた。

臭いについては、強烈な印象を受て今でも忘れられないシーンある。もう30年近くも以前のことだが、海外ドラマシリーズという優れたテレビ番組があり、その回の主人公は老年の婦人だった。彼女はいつもキャンディーを嘗めている。老人ホームの友達だったろうか、何故いつもキャンディーを手放さないのか聞く。すると、「孫がね、私の口は臭いっていうのよ」と答えた。なんとも切ない表情で哀愁漂う場面だった。その時の私はまだ20代後半、ぼんやりと「キャンディーばかり食べていたらもっと臭うようになっちゃうよ〜!」と声を掛けたくなった事を覚えている。自分とは無縁の、遠い遠いところにいるおばあさんの話だった。

ところが、その私が、どんどん彼女の年齢に近づいている。だから、消臭をうたう商品があまりに声高に宣伝されると、ある種の恐怖心が喚起され、と同時に我ら世代を弁護したくもなるのである。

子供の頃、抱かれた時の父の臭いが好きだった。タバコや整髪料の臭いに体臭が入り交じっていて、決して嫌でなく安心する臭いだった。鏡台に置き忘れられた母のスカーフをそっと首に巻くと、ほんわり母の臭いがして優しさに包まれるようだった。 大好きだった祖母は総入れ歯だったが、変な臭いなど嗅いだ記憶はない。一緒に日向ぼっこをすると、毛糸と割烹着に残った石鹸の入り交じった臭いが彼女らしかった。これからの子供達は、こんな思いをせずに成長するのだろうか。そう思うと、ちょっと寂しい気がする。

個人的に見れば、自身臭いに敏感な方で、自宅の冷蔵庫やトイレ、台所のゴミ箱といった場所にはかなり気を使っている。だが、それはマメに掃除をすることによって解消し、消臭剤は使っていない。だから、我が家と自分の周りにはそこはかとない臭いが取り巻いているのだろうが、人間臭を人工的に抹消したくない、それが私の方針なので仕方ない。

あらどなた?こんなことを聞いているのは。「ねえ、デービッドの臭い好き?」これには彼の台詞で解答させて頂こう。「僕はきれいだよ!毎日シャンプーをするし、その泡で体中洗うんだから」ニコッ!

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