デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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デービッドの選抜き

今年1月の展示会で、「デービッドの選抜き」に展示した、最後のふたつの作品です。

  • 「四季のながめ」
  • 種類:多色摺
  • 絵師:山本昇雲(1870-1965)
  • 制作年:明治33年頃
  • 入手:インターネットオークション
  • 価格:2,500円(かなりお買得!)

毎年のことですが、「デービッドの選抜きコーナー」に8枚の作品を選ぶ時には、変化に富んだ作品を選ぶようにしています。あちらからちょっと、こちらからちょっと、という風にです。でも、作業場の棚や引き出しの中を見回していると、どうしても明治時代の美人画を入れてあるファイルに舞い戻ってしまうのです。この中から選ばずに、このコーナーができるなどあり得ない事で、今年はそれが2枚になってしまいました。

これは、美術図書でよく見るようになってからというもの、欲しくてたまらなかった版画です。ですから、数ヶ月前にインターネットのオークションでこの版画を見つけた時には、落札のチャンスを逃さないよう目覚まし時計のスイッチを入れました。かなりな高額になっても手に入れようと覚悟していたのですが、関心のある人が他にいなかったようなのでほっとしました。そして、嘘のような安値で買うことができたのです。

昇雲は、一般の人にはほとんど知られていない絵師ですが、彼の遺した美人画は相当な物です。どうか近寄って見てください。髪の毛の彫り、布地の質感、かすかに積もる雪、好対照な右半分と左半分... 見るところはたくさんあります。

昇雲の作品はぜひ復刻してみたいものですが、残念ながら、とてもそんな機会はないでしょう。彼の没年は95歳ですから、現在の法律では、2015年まで著作権が存在します。目下審議中の新しい著作権が執行されれば、それが2035年まで伸びてしまいます。でも考えてみれば ... その時、私はたったの85歳 ... 可能性がないと断定はできませんね!

  • 摺物
  • 制作年:嘉永4年(1851年)
  • 入手:インターネットオークション
  • 価格:5,700円 
  • Cost:5,700 yen (another fabulous bargain!)

今年の「デービッドの選抜きコーナー」、最初に選んだのは、私の大好きな作品のひとつで(どれも自分の大好きな作品ばかりなんですが!)今から150年前に作られた摺物です。

皆さんが数えなくてもいいようにお教えしますと、この摺物には118首の歌があります。すべて彫って摺られています。どこかの歌会で選ばれた歌を載せたのでしょうか。

このような版画を目にすれば、私達はいつもこんなことを思うはずです。「たかが何かの記念じゃないか、一体全体どうしてこんなにたくさんの労力とお金を費やしたんだろうか?」と。まず最初の理由は、彼らにとってはとても重要な意味があって、それだけの価値を認めたからでしょう。また、私を含めて誰もが、「こんなにたくさんの歌を版画にするなんて!彫るのにどれだけ長い時間が掛かったんだろう!」と思うはず。ところが、当時このような事は、特別ではなかったのです。思い出してください、昔の本は、頁の隅から隅まで、すべて人の手で彫り摺っていたのです。文字を得意とする彫師がたくさんいて、彼らの仕事はとても手早かったのです。実際、この程度の仕事をするのに、どれほどの時間が費やされたのか、私には正確なところはまるで分りません。でも、どのように作られたかは分ります。文字と絵の画かれた版下を版木の上に貼付けて、彫刻刀を研いで体制を整えたら、集中するのみ!

そして、あっという間に、でき上がり!

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