デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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松井考尚さん

このコーナーに話を書くときには、いつも、どなたにお願いしようかと迷います。まず頭に浮かんでくるのは、最近なんらかの形で話をする機会のあった方たちです。でも、収集家の名簿に目を通してみると、そういった人たちの後に隠れてしまっていた名前がいくつか浮かび上がってきたのです。私を煩わせないようにと、遠慮がちな人たちに違いありません。それで、きちんと話をする機会がなかったのです。

そこで名簿の古い方を探り、12年以上も私の作品を集め続けてくださっている方たちを調べて、松井考尚さんを選び電話をしました。どのような方かを知るために、訪問してお話を聞く事ができるか問い合わせたのです。

「訪問」は問題なく決めることができましたが、私の仕事場を見たいという彼の要望の方が強くて、このコーナーを書くためには残念なことに、松井さんが私を訪ねることになったのです。そして、もっぱら彼の方が私に質問する側になってしまいました!でも、いろいろと話をしているうちに、彼がこう言ったのです、「私が集めている版画の中に...。」ここをチャンスとばかり、「お訪ねして、ぜひ拝見したいです!」と切り出しました。そして、( 私にとって)ずっと面白く実りの多い「訪問」が実現したのです。

お父さんと私がゆっくり話のできるように、息子さんたちふたりは自分たちの部屋に入って遊んでいました。でも私は、自身の子供たちが大きくなってしまっているので、近頃の子供たちがどんな遊びをしているのか知りたくなったのです。それで、坊やたちを呼んで、ちょっとおもちゃを見せてもらう事にしました。お父さんは待っていられますからね!

数分もすると、この訪問で予定していた通りになりました。つまり、誰かのコレクションを見せてもらうことになったのです。子供たちが集めていたのは、もちろん木版画ではありません。彼らの関心は、恐竜のモデルや空想的な生き物を描いたゲームカードで、ものすごい量が集められていました。そして、こういった物に関する、もの凄い知識を披露してくれたのです。私が、冗談めかしにカードを拾い、名前の所を隠して言い当てられるか聞いてみると、何度試しても、即座に正しい答えが帰ってきました。もしも誰かが、私の版画コレクションから一枚ずつ取り出して、同じように私を試したら、これほどきちんと答えられるかどうか...。

きっと、こんな風に思う人がいらっしゃることでしょう。怪獣カードみたいなくだらない物に、これほどの労力と時間を費やすなんて無駄なことだと。でも、私はそう思いません。脳の訓練は良い訓練、どんな楽しみも良い楽しみですから。それに、彼らのしていることは、その父親や私のしていることと、本質的に大差はないのです。あるテーマについて掘り下げ、それについての情報を集める。きちんと机に向かって「研究」する、などというのではなく、ただ遊んでいるのです。

その後しばらくは、坊やたちがお父さんと私だけにしてくれたので、ゆっくりと松井さんの集めた版画を見て過ごしました。いろいろと幅の広い収集内容で、私はその中の、春章の役者絵が一番面白いと思いました。自分が、同じ作者の百人一首を復刻しているので、ほぼ同じ頃に作られた役者絵の、柔らかい紙質を味わいながら、当時を懐かしく思いました。こうして、とても楽しく二時間程を過ごしているうちに、いつか復刻して自分の作品集に加えたいと思うほどの版画を、何枚か見つけてしまったほどです。

今回の訪問は、当然ながら、松井さんについてもっと知るのが目的でした。彼は、私の作品をずっと集めていますし、ニュースレターも長年継続して読んでいますから、この二時間程で、この不均衡を調整するのはとても無理ですが、とにかく私達は交流を始めたのです。

このコーナーに記事を書いても良いかどうかを、松井さんにお聞きした時、 ー どなたもほとんど同じようにお答えになるのですが ー ご自分とその家族は、ごく普通の暮らしをしているだけとおっしゃったのです。ご存知かどうかわかりませんが、正にこれこそが、私の聞きたいことです!私の「版画玉手箱」が、誰かの家に飾られている。近くには、その人の浮世絵コレクションや中国の歴史上の人物像も置かれ、そう、恐竜のモデルなども並んでいる。こんな様子こそが、私の作品が社会の中で意味を持つ存在である、と感じさせてくれるです!

松井さんとご家族のみなさん、私の活動を長年にわたって支えてくださり、ありがとうございます!

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