デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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ジャネットさん

私の展示会に、ヘルメットをかぶってやってくる人はめったにいません。でも、今年の1月、お孫さんの璃音(りょうね)ちゃんと一緒にいらした大前ジャネットさんは、白い自転車用のヘルメットを手にしていたのです。ちょっと驚きました。ほとんどのお客さんたちは、電車や地下鉄に乗って来るのに、四谷の自宅から有楽町まで、自転車で来てくださったのです。実際、便利な乗り物ですから、娘が小さかった頃は私も、後に乗せてどれほどの距離を移動した事でしょう。

ジャネットさんと私の共通点は、この乗り物だけではありません。このように、彼女と私を取り替えても内容が通じてしまうような話は、まだあるのです。

まず横笛、予想していた通りご紹介することになりました。写真は、日本画家の石田和歌さんが画いた絵です。そう、ジャネットさんはかなり横笛に打ち込んでいるのです。彼女は、納得のいく師を求めて、かなり高度な技術を習得しました。今この話を書きながら、彼女が中国の琵琶奏者とデュエットしているCDを聞いていますが、とても素晴らしいのです。このCDをお返しする時には、もっと多くの人達が楽しめるよう、一般向けに販売するべきだと伝えるつもりです。日本の伝統木版画と同じように、横笛に興味のある人は世界中のいたるところにいると思うからです。

ジャネットさんの家には、とても広い居間があり、ちょっとしたコンサートを開けるほどです。実際、そのような目的でも使われるらしく、最近デンマークの音楽家たちと、ここで共演した時に録音したCDも聞かせていただきました。ヨーロッパでは、自宅で小演奏会を開くのは昔からよくあることなので、テレビやビデオなど電化が進んだ現代になっても、そういった習慣を維持し続けているのは喜ばしいことです。友人や家族が集まって一緒に演奏をする、しかもプロ級のレベルで。私のように、独り黙々と作業をする版画の分野では、とてもできないことです。(この2枚のCDを聞いて思ったのですが、「アットホーム」というレーベルを作って、彼女のCDを発売したらどんなものでしょうか!)

ジャネットさんは、私よりも以前に日本に来ています。彼女の子供たちは日本で育ち、現在は、私の娘たちと同様、独立して暮らしています。自分たちの経験してきたことについて、彼女と話し合うのは、とても興味深いことでした。私達のように、異文化の交錯する家庭を築く場合については、言語や教育に関する様々な意見があるなか、自分たちは最善の道を選んで来ただろうかという点です。彼女も私も、なんとか無事に成し遂げてきたのでは、と感じていますが、... 時の経過が答えを出す事でしょう!

最後に、とっておきの話をしましょう。少なくとも、私に取っては一番良いところなんですから!この記事を書くためにジャネットさんの家を訪ねると、大きくて素晴らしい木製のテーブルのあるダイニングに通されました。そこの席に着くと、1分と経たないうちに、入れたてのコーヒーとオーブンから出したばかりの熱々アップルクランブルを盛りつけたお皿が目の前に並べられたのです。「アットホーム」とは、正にこのことだと思いました!

ジャネットさんありがとう!私の版画活動を支えてくださっていることもそうですし、外国人にも日本の伝統文化を深く理解してそれを身につけることができる、ということを示す、もうひとりの存在であることもです。(でも、僕にはアップルクランブルが一番!)

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