私が初めて展示会をした時、飾り付けの日は大混乱でした。「百人一首シリーズ」を始めて1年が過ぎた時で、今から16年前のことです。当時は羽村に住んでいて、その自宅からあまり遠くないところにある小さな貸店舗を、無料で使っても良いという申し出があり、喜んでそれを受けました。そして初日、10枚の版画を飾り付けようと、ちょっと早めに行くと、大家さんは部屋を片付けておくことをすっかり忘れていました。箱や椅子やテーブルがごちゃごちゃしていて、部屋の中央にはオートバイまであり、床にはオイルが垂れていたのです。さあ、11時のオープンまでになんとか体裁を整えなくてはなりません。それからの数時間、私がいかに奮闘したかは容易に想像できますよね!
今年は、オートバイこそないものの、あの時を思わせるような時間との戦いでした。交通会館は、夜間に準備することを許可しません。ですから、11時の会場までの2時間半程で、会場設定をすべてしなくてはなりませんでした。幸い今回は、自分ひとりでなにもかもしなくてはならなかったあの時と違い、たくさんの助太刀がいたのです。総勢10人が、梱包を解き、展示台を組み立て、壁へ展示物を貼付けるために画鋲を打ち、もうコマネズミのように働きました。早朝から集まって奉仕してくれた友人達に、感謝感謝です!会館時間ぎりぎりに作業を完了したのですから、ひとりでも欠けていたら、間に合わなかったでしょう。
過去のニュースレターを取り出し「展示会報告」を見ると、近頃は「今年はマスコミに注目されなくて...」と、毎年のように書いています。「百人一首シリーズ」を制作している頃は、いつもたくさんの紹介記事が書かれていたのですが、この大プロジェクトが完成すると、私の展示会など報道価値がない、と思われるようになってしまいました。(お陰で、特別だったのは自分ではなく百人一首だった、と気付いたのですが!)
そして今年も違わず、私の展示会についての記事はほとんどありませんでした。それで、私はめそめそしていたでしょうか。いいえ、ちっとも!予期していた通り、たくさんの収集家の方達が来てくださいましたし、皆さんが友人や知人に展示会の事を連絡して下さっていたのです。実際、6年前の百人一首シリーズを完成した時以来の賑わいでした。
新しいギャラリー
展示会場を交通会館に移動したのは、新宿高野ギャラリーが閉鎖するので止むを得えなかったからですが、結果としてとても良かったようです。床面積はほとんど変わりませんが、壁の面積が幾分広くなっています。また、会場がふたつの部屋に分かれているので、とても便利でした。それぞれの部屋を違う明るさにして、照明効果を狙うことができましたし、奥の部屋でギャラリートークをしている間は、話を聞かないお客様達が、もう一方の部屋にある作品を鑑賞することができたのです。
初めての会場で勝手が良く分からず、基本的には今までと同じ展示方法にしてみましたが、もう感覚がつかめたので、次回はいろいろ案を練ってみたいと思っています。展示準備のボランティアさん達、待機していてくださいね!
ギャラリートーク
交通会館は、日曜から1週間単位で会場を貸すシステムになっています。それで、今年は初日にギャラリートークをする事になりました。つまり、非常に忙しい一日になるということです。朝早くからの会場準備とギャラリートーク、このふたつが、今まで一番混雑している日曜日にぶつかるのです。ですから、自分の出番が来た時には、くたくたになってしまい、上手に話ができないのではないかと心配でした。過去2回のトークは、お世辞にもうまいとは言えなかったことを自覚していたので、今回こそはバッチリ「ホームラン」と決めたかったのに!
そして結果は、「場外ホームラン」とまでは言えませんが、今までよりずっと上出来でした。とてもくつろいで話を続けられましたし、話題があちこち飛びすぎることもなく、座ったまま眠りこける人もいませんでした。いつもより面白くなった理由のひとつは、聞いている人達からの飛び入りがあったからです。漫画家の山田玲司さんは、私についての話を雑誌に書く(描く)事になっていて、出版前の原稿の一部を見せてくださり、松山静子さんは、私の作品のひとつを使って、自分の書と組み合わせた巻物を広げて説明してくださり、そして佐藤允昭さんは、今まで私がお送りした年賀状や手紙すべてを、分厚いアルバムにしたものを持参して見せてくださいました。こういった参加を、もっと皆さんにお願いすると良いですね — 来年のギャラリートークで私のする事は、手持ちの品を持参して話をしてくださる方々を、紹介するだけになるかもしれませんね!
新シリーズについて
毎年、展示会をする度に、ちょっとした矛盾に悩みます。完成したばかりの作品を飾ってお見せするのが、開催の名目ですから、今年ならば「四季の美人」がその主な内容になるはずです。でも私としては、それらは終わったもので、すでに興味は薄らいでいるのです。そして、最も話題にしたいのはいつも、目前にあるシリーズ — 今年ならば「版画玉手箱」 — です。
今年は、この気持ちをなんとか組み入れる事ができました。見本を展示しておいたところ、2週毎に新しい版画を受け取るという案に、興味を示す方が多かったので、とても嬉しくなりました。それなりの注文数もあり、今年もなんとか仕事を続けていけそうです。たくさんの方が、そんなに窮屈な予定を立てて大丈夫なのかと心配してくださったのですが、私なりに十分慎重に計算して、なんとかなると考えています。この記事を書いている現在、すでに6枚が発送されていますし、こうして頻繁に締め切りのある方が、仕事への集中を維持し易いのです。(そんなものがなくても、同じかも知れませんがね!)
こうして振り返ってみると、とても良い展示会でした。交通会館と末永く良い関係を築いて行きたいものです。高野ギャラリーには、連続12年間お世話になりましたが、ここ新天地ではどのような連続ヒットを打っていけるのか、とても楽しみです。では、来年も同じ場所でお会いしましょう!
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