デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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デービッドの選抜き

今年の展示会で「デービッドの選抜き」に展示した中から、続けてふたつを選びました。

  • 種類:「立板古」(錦絵のなかに描き込まれた人や家などの絵を切り抜いて、糊で貼り合わせて芝居の舞台などを台紙の上に作り上げる、江戸時代の夏の遊び)
  • 制作年:明治33年
  • 出版:東京良好堂
  • 入手:神田神保町の古本屋
  • 価格:31,500円(ばかげた値段ですが、今回の展示会用に欲しかったのです!)

切り貼りをして、絵を立体的に組み立てられる版画、これを初めて見た時には、とても驚きました。自分が子供の頃に遊んだのと同じ類いのおもちゃが日本にもあったことを知ったためですが、それだけでなく、こんなに古くから存在していたからです!

自分の持っていた、このタイプのおもちゃはどんな物だったでしょうか、なかなか思い出せません。(とっても昔のことですから!)弟と組み立てたのは、鎧を付けた騎士のいる古いお城だったような...。これは、歌舞伎で演じられる「曽我十番」からの場面で、全体を見ると、日本の子供達も私達と同じような物に興味を持っていたようです。芝居と戦いの場面です!

実際に組み立てたものを、展示会場に展示したら面白いのでは、と考えたのですが、私にはこれで遊ぶ時間がありません。でも幸い、両親と弟が海を越えて展示会のために手伝いに来てくれたので、もとの版画をカラーコピーしたものを使って、それを切ったり貼ったりして作ってもらうことにしました。日本にやって来て、こんな作業をするとは、夢にも思わなかったことでしょう!

***
  • 題:ポチ袋
  • 制作年:明治33年

「こんな平凡な物を版画展に飾るなんて」と思う方がいらっしゃるかも知れませんが、私はそう思いません!こういった物があるからこそ、「デービッドの選抜きコーナー」が作れるのです。私が伝えたいのは、かつて木版画は日常生活の一部であった、ということだけでなく、いかにきれいで味のある物が使われていたか、ということです。

ポチ袋は、お金を包むという目的で、ごく日常的に使われました。日本では、御礼などでお金を渡す折には、何かに包むのが礼儀だったので、たくさんの種類の包みが店先に並んでいたはずです。

こんな小さな物に私が魅力を感じる主だった理由のひとつは、当時の版画職人達が、これほどまでに高度な技術を持続できた、ということに目を見張るからです。何といっても単調な仕事、何千という枚数を摺るのは、それこそロボットのような作業です。それなのに、こんなに繊細な仕事をしているのですから!近い将来 ─ それもあまり遠い日のことではなく ─ こういった版画は美術館に展示されるようになることでしょう。もしも思い通りになっていれば(財源なども含めて)、「デービッドの選抜き美術館」がもう会館しているはずなのですが!

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