デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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'Successful Life?'

今日もデービッドの所にインタビューの記者が来た。彼は近頃、若者向けの雑誌に、ユニークな生き方をしている例として取り上げられることが多い。彼のような生き方が紹介されると、それを読んだ若い世代の人達はどのように受け止め、どのような影響を受けるのだろうか。こんな事を考えていたら、20年も前のある出来事を思いだした。

娘達が小学生の頃、学校のPTA役員を1年だけ引き受けたことがある。丁度その年、小中合同の企画で講演会を開く事になった。某大学の社会学の教授が話をするという。企画はしたものの人数が集まらないらしく、ついに私にも召集がかかり、嫌々夜の会場に出向いた。

会場は中学校の教室で、いかにも掻き集められてきたといった風の父兄が、部屋の半分程を埋めていた。こうして講演らしき体裁が整うと、おもむろにふろしき包みを抱えた某教授がやって来て話し始めた。何を話したかというと、どのような子供が、人生の成功を修めたかということらしく、「人生に成功」という言い回しが何度もでてきた。聞いている私は、もうしょっぱなからつまずきである。「人生に成功した人ってどんな人のこと?その定義は?」質問したいのをこらえて話を聞いていると、徐々に判ってきた。彼の言うところの成功者とは、どうやらお金持ちになった人のようである。ここまで見えてきたら、私は話の続きを聞くのが嫌になった。彼の授業を受けている大学生達は、講議を聞いてどんな風に消化しているのだろうかと、不安にもなった。

一方、インタビューを受けているデービッドは、若者達にどんなメッセージを送っているのだろうか。「若い時には、色々な事をやって何度も壁にぶつかり、失敗してもいいじゃないか。そして、これと思うものに出会ったら、とことん力を出し尽くして取り組んでごらん」といったところだろうか。

事実、御本人は、運命の出会いとも言える木版画を続けて、毎日楽しく意欲的に生きている。版画に惚れ込み、これが続けられるのならば、どんな事でも乗り越えてしまうだろう。まるで人生を大海原に見立てて、波乗りを楽しんでいるかのようである。大波を豪快に乗り越えることもあれば、たいして大きくもない波に飲まれそうになることもありながら。おそらく「人生の成功」なんて考ちゃいないだろう。

私は今50代の半ば、人生に昇り坂がありピークがあるとすれば、残りは下りあるのみ、「目下地滑り中」などと悲観的な視点をとる事がある。すると、彼がこんなことを言った「君さあ、考えてもごらんよ。僕は今54才だよね。でさ、84才まで生きるとするだろう、そうすると、まだ30年あるよね。30年もあるんだよ。20才から50才まで生きたのと同じ30年間がまだこの先にあるんだよ。素晴らしいじゃないか!」

この人、84才になったら何て言うか想像できます?「あのさ、104才まで....」

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