デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

41号から最新号まで

1号から40号まで



Categories:

良くある質問

昨年始めたこのコーナー、もういくつかの質問を取り上げてみました...

Q. 次の作品を公開しないのはなぜですか?

A. それには2つの理由があります。新たな集を企画する時には、もちろん作品を選んであるので、私自身は次を知っています。でも、摺物シリーズを続けているうちに気付いたのですが、途中で気の変わることが度々あるのです。計画しているよりも良いと思える作品を見つけて取り替えることもありますし、どうしても気に入らなくて他の作品を探すこともあります。ですから、あらかじめ作品を公開してしまうと、困ることになるのです。「実は、しかじかの理由で、お待ちいただいている次回の作品は、変更となって、うんぬん」と、言い訳をしなくてはなりませんから。

もうひとつの理由は、収集家の方達がもっと楽しめるように、という点にあります。どの集でも、次に来る作品についての大まかな推測はできることでしょうから、思ってもいないような版画が届くことはありません。でも、ほとんどの方は、私から届く包みを開く時には、ちょっとばかりわくわくした気持ちを味わうと思うのです。あらかじめどんな絵が中にあるのか分ってしまっていたら、楽しみが半減してしまうでしょう。もちろん、裏目に出るという可能性もあります。誰もが私の選択に同意する、というわけではないでしょうから。そういった点を考慮しても、全体としてみれば、毎回の意外性を楽しんでいただけていると解釈しています!

Q. 送られて来る版画のラベルには、版木(7枚)摺(15回)などと書かれていますが、これはどういう意味なのですか?

A. どの色も別々の版木で摺るのですが、版木1枚に1色というわけではありません。この例の場合、「版木が7枚」というのは、版木7面を使用したということです。つまり、3枚の板では表と裏の両面を使い、1枚は片面だけを使用したからです。こういった場合、たいていは7回摺るということになるのでしょうが、色に深みを出したり、ぼかしを表現するために、同じ面で繰り返し重ね摺りをすると、摺の回数が増えることになります。

さらに細かい点を説明すれば、ひとつの面に、別の色となる部分を一緒に彫ることがあります。これは、各々の場所が比較的狭くて、しかも摺を妨げない程度に離れていなくてはなりません。こういった場合は、たいてい2度に分けて各々の色を摺りますが、両方の部分に違う刷毛で別々の色を付けて一度に摺ることもあります。

摺の専門家という立場から言うと、何回摺ったか、言い換えれば、版木の上に何回紙を置いたかという点に意味があるのです。なぜなら、このことが、全工程にかかる時間を決定するからです。これは、紙に黴が生えないように対処する必要があるかどうか、ということにも関係してきます。

最近の私の作品で最も多かったのは35回摺で、この数字は記録には遥かに及びません。20世紀の「新版画」では、50回以上というのがざらで、中には100回摺などという複雑な作品もありますから。私のアルバムにはそれほどの作品はありませんが、これはひとえに制作時間が恐ろしく長くなるという点でかなわないのです。でも、いつの日かこういった特別な作品を作ってみたい、と思っていないわけではありませんよ。1年間に作品1枚だけという集があっても、みなさんに購入していただけるかどうか。そこが問題なのですが...。

コメントする