デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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僕は億万長者! ... (違う!)

このニュースレターの準備を始めた今、新シリーズ「四季の美人」の1枚目は、やっと収集家の皆様の元に送られている頃です。この新シリーズを計画する時には、きちんとした予算を立てるために、過去2つのシリーズにおける経費や収入がどうであったかを示す記録を調べる必要がありました。以前なら、およそ不可能な事だったのですが、昨年に自分で新式簿記を開発したお陰で、とても簡単にできるようになっています。

こうして、数値自体は難無く引き出せるようになったのですが、他の数値までも見えてしまい、興味深さを通り越してショックを受けてしまいました。

百人一首シリーズは1989年に開始し、私達家族の友人でもあるパン屋の長さん夫妻が最初のお客様でした。あれから15年も過ぎましたが、このシリーズは現在もお客さま達にお送りしています。でも、一体どれくらいの数を発送したのかを計算する機会は、今までなかったのです。そこで調べてみると、10枚ひと組のセットが計 1,110 組、計 11,100 枚の版画が収集家の元に送られています。1枚は、どれもきっかり1万円ですから、総額 111,000,000 円です。最初にこの数字をはじき出した時には、ゼロを付け過ぎたのかと思い計算をし直したのですが、やはりこの通りでした。

摺物シリーズについても同じく計算すると、10枚ひと組のセットが計 539 組発送されています。ということは、1枚6千円の作品が 5,390 枚ですから、総額 32,340,000円です。

これらを統べて合わせると、... 過去15年間に 16,490 枚の版画を発送し、 143,340,000 円を得たことになります。なんという数値でしょう、私は億万長者です!

ところが、誰もが知っているように、経理の「総収入」と「純利益」の間には大きな違いがあります。当然の事ですが、15年のあいだ営業活動を続けるためには、たくさんの費用が掛かりました。一体私には、どのくらいの実収入があったのでしょう。伝統木版画の制作はお金になる仕事なのでしょうか、それとも、私はかろうじて切り抜けている状態なのでしょうか。お客様達が私の作品を集める理由は、ずいぶんと様々なようです。私が切実に助けを必要としているので活動を支える一員になろうと考える方、私がちょっとばかり有名で成功しているから集めようと思う方、また、こういった事には一切関係なく単に作品が好きだからという方もいらっしゃいます。これから出てくる数値を御覧になれば、どのような理由をお持ちの方でもきっと満足してくださるでしょう!

ここに3種類の表やグラフがあります。この表は、過去15年間における私の事業の収支全体を記す「総括」です。

必要経費を取り除いた残りの収入は、ここ数年かなり安定していて、年間5百万円前後です。とはいっても、この段階ではまだ実収入といって、手取り金額ではありません。税金や健康保険料などの非消費支出を更に取り除いてやっと、自由に使える金額です。

この額を12で割ると、月々の収入となる140,000円に到達します。この中から、食費・衣料費(ほとんどなし!)・新聞書籍費・旅行費用などを捻出するわけです。

3本ひと組で表わしている棒グラフは、各々、「総収入」「必要経費」「純利益」の数値を示しています。こうしてグラフを一覧すると、この間にあった多くの重大事がありありと見えてびっくりします。

  • 最初の2年間は、ほとんど無収入。この時は、まだ英語を教えていたので、お米を買う事ができました。
  • 1991年には、英語教室を閉鎖。続く3年間は、経済的に非常に苦しい状態でした。
  • 1994年には、総収入が急激に伸びています。これは、百人一首シリーズが半分完成した時点での展示会で成功を収めたからです。これを機に、3度の食事に窮するような危機は去りました。
  • 1999年の突出は、御存知の通り、百人一首シリーズの完成展示会です。メディアからの注目は大変なものでした。
  • 2003年のスランプは、年に10枚というノルマを達成できないしわ寄せが来ているためです。ここ数年は、非常に細密で時間の掛かる摺物アルバムを制作しているのに加えて、百人一首シリーズの追い摺をしているために、仕事の量が多すぎるのです。
  • 1995年から現在までの、必要経費を取り除いた私の収入は、急上昇をしてドスンと降下したことはありましたが、4〜5百万円と安定しています。

数頁前の「ハリファックスから羽村へ」では、自分の版画の技量を高めるために日本に行って、「やるぞ」と最終決断をする過程を説明しています。もしも、あの時点でこのような数表を見ていたら、どんな反応をしていたでしょうか。時にはとても厳しい状況に置かれる、という事が見えて、ちょっと怖じけたかも知れませんが、全体としては元気付けられることになったと思います。なぜなら、「こういった仕事に関心を示してくれる人、それも、進んで版画を購入するほどの人達を見つけられるだろうか?」という核心への疑問には(あの時点では、この問に対する答はまったく見当がつかなかったので)、疑う余地なく「Yes」と解答されているからです。16,490回の答えがあり... 数は増え続けています。

ですから、これらの数字は、好きなように読み取ってくださって良いのです。頂点にある数字を見る限り、かなり成功していると言えるでしょうが、末端にある数値を見れば細々とした状態であることが判明します。今年は特に、ちょっと複雑な状況にあります。新シリーズを開始したばかりで収集家の数はかなり減り、まだこの真価が未知数なため、過去の百人一首シリーズと摺物アルバムからの収入で、かろうじて沈没せずに漂っているという、移行期間だからです。

私はお金持ちですか?そんな風に思う人はいませんよね。なんとかやっている?そうですとも!自分の持家で食べる物に困らずに暮らしています。何かをして生計を立てるというのならば、ここが基準となる指標ですから!

ところで、来年は?どちらに動くかは未知の世界 ... 上向きかもしれませんし、下降線を辿るかもしれません。だからといって、それを苦にするなどということは決してないでしょう。私がそんなタイプの人間なら、そもそも他国でこういった事をしているはずはないでしょうからね!

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