デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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先日、珍しく通勤時間帯の電車に乗った。バッグの中には、いつものように単行本を入れているのだが、車内の人物観察が面白くて、しばし遊んでしまった。以下は声に出さない私の独り言。

斜向かいで吊り革につかまって読書をしている30代前半とおぼしき女性。

「襟足のきれいな人だなあ。こんな風になるのなら、私もショートにカットしたいなあ。おや、人さし指にリングをしている。キャリアウーマンかあ、ジャケットの趣味も良いし洗練されているなあ。」

目の前に座っている男性。

「さらっとした端正な顔だちだなあ。上等のバーバリのコートを着ているけど、右肩の飾りボタンが半分割れてなくなっている。奥さん手を抜いているのかな、共稼ぎで忙しいのかな?ボタン付けを女の仕事と決めつけるなんて、古いのかなあ?」

ここまで遊んで、はたと気付いた。誰かが私を同じように観察しているかもしれない。

「白髪も染めないで、化粧っ気もなくて、もうちょっとなんとかすればいいのに。どう見ても通勤には見えないわねえ。肩にさげてるくたびれた鞄も何とかならないかしらねえ、いい加減歳食ってるようだけど、一体何をしているおばさんかしら?」ってなところだろうか。

とは言え、世の中には引き立て役がいたっていいんだし、男性の中にデービッドのようなのがいるのだって面白い。えっ、デービッド?観察したらどんな風?

7年程前の事だが、ある洒落たイタリアレストランで食事をした。なかなか美味しかったので、気分良くレジに向かうと、丁度ひと組みのカップルが精算中である。デービッドが順番を待つ間、私は先に店を出て、ちょっと離れた所で待っていた。すると、支払いを終えたばかりのカップルが笑いを押し殺しながら、ころげるように走って来る。一息つくと、「あの外人、まるでホラー映画に出てくる人みたいだったねえ」顔を見合わせ、そのまま弾みがついたように笑い去って行った。「私が、その人の連れなんですよ〜!」と言う隙もなかった。あっけに取られた直後、彼等の笑いは私に移ってお腹を抱えて痙攣状態、涙まで流れてきた。

やがて飄々とレストランから出できたデービッドは、私の様子を見て一瞬青ざめ「貞子さんどうしたの?」とオロオロしている。「泣いているんじゃないのよ〜」と事の次第を説明するにも笑いが止まらない。やっとの思いで説明を終えると、笑いはデービッドにも伝染してしまった。

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