デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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唐澤さん

版画制作の企画を立てたばかりの頃、人々が私の作品を知るようになる唯一のきっかけは、恒例の展示会でした。でも、皆さんも良く御存知のように、今日では、情報を得たり通信をする新しい手段がたくさんあります。ですから私の場合も、新たな収集家が増えるのは1月の恒例展示会に限らなくなってきています。毎朝パソコンのスイッチを入れる時、どんな電子メールが来ているかなど、まるで予想がつきません!唐澤さんからの初めての連絡も、このような形で頂戴しました。彼の友人が私のホームページを紹介したことがきっかけで、そこにある内容に目を通し、作品を求めていらしたのです。

この記事を読んでいる方の中には、実際に版画を見ないで購入すると決めるなんておかしい、と思われる方がいらっしゃるかもしれません。でも、唐澤さんにとっては、何も驚くような事ではないのです。彼が、情報技術分野における世界規模の会社で、日本支社の社長をしているということは、電子メールのやり取りを通じて知りました。会社の業務内容は、専門家でないとなかなか理解のできない技術的に高度な分野なので、私にはあまりよく分からないのですが、ごく簡単に言えば、消費者と企業とが好きな通信手段で交信(コミュニケーション)ができるように、非常に柔軟性のあるソフトウェアを専門に開発している、というのが業務内容のようです。唐澤さんは、一日中こういった仕事にどっぷり漬かっているのですから、膨大な資料の中から要点を拾い出す事など朝飯前のはず。私のホームページに目を通して、基本内容をすばやく掌握し、活動を支持してあげようとすぐに決断なさったようです。

唐澤さんの事務所を訪ねた先日の事、部屋に通された貞子と私はちょっと心配になりました。これからする話の内容が理解できるのだろうか?どの分野の専門家と話をする時もそうなのですが、─そう木版画の場合でも!─門外漢に内容が理解しきれないというのは、良くあることです。

幸い、唐澤さんはこのことを良く心得ていらして、この会議室で日常するのとはちょっと違う話を準備なさっていました。私が話を切り出さない前に、何枚かの写真を机の上にさっと広げ、「これ、何だと思われます?」私は、何を見ているのか理解できませんでした。木の部分を歪めて写してあるような...。でも、数分の後に唐澤さんが説明をしてくださってから、映像がはっきり見えてきました。カメラを真上に向けて撮影した、何本かの木の姿で、その角度から写すと、木々の作る天蓋に細い道のようなものが見えるのです。均等な間隔で、時には真直ぐでさえある道、木と木が決して接触せずに保つ距離が見えます。読者の方達はもう、私がひと段落前に書いた唐澤さんについての説明から、彼が語ろうとすることが想像できるかも知れませんね!そう、木の世界でも互いのコミュニケーション手段があるらしいということです!

「空の路地」の写真:高橋由起子様

新聞や雑誌の記者が私の所へ訪ねて来るというのはよくあることですが、話はいつもある点を巡ってぐるぐると廻り続けます。私がどんなに何か別の事を話そうとしても、まるで話題に意志があるかのように、同じところに舞い戻っているのです。唐澤さんとの会話も同じでした。彼の所属する異なる分野の人達が集まる毎月の会合の事、読書の事、この木の写真を取り続けている友人の事、などなど...。そして、まるで仕事に結びつかないかのように見えるこういった活動が、よく考えてみると、かなり仕事に繋がっているのです。しかも、どれもたっぷり楽しんでおられる。分りました!私だって、いつも同じところに行き着くのですから、彼がそういった様々な事に興味を持っても不思議ではないですね。

自分の仕事をとっても楽しんでいる方と話をするって、時として難しくなってしまいますがね!

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