デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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どうして? なぜ?

「うるさい子だねえ、お父さんに聞いておいで」今でも思い出す。いつも忙しい母にしてみれば、さぞやしつこい子供だったのだろう。頻繁にこうせっついたのは、なにも私が学習意欲の旺盛な子供であった故ではない。今にして思えば、忙しく立ち働く母親の関心を少しでも自分に引き止めたかったのではなかろうか。

やがて自分自身が母親になり、今度は「どうして?」の問いに答える側に立ち、それを卒業する頃から、この問いかけを自分から発することは稀になっていった。たまに疑問が湧き出てきても、「どうでもいい」「あたりまえ」果ては、「答えなんかあるものか」で締めくくる。気力、気迫、生きる力が弱くなってきた証拠だったのかも知れないが、こうしてするりするりと体をかわすと、なんとも気楽に生きることができた。

そんな穏やかな日々を過ごしている日常に、飛び込んで来たのがデービッド。まあ、この人はウルサイ。電車に乗っていても町を歩いていても、「面白い!」「どうして?」「変だなあ」の連発である。最初は親身に一緒になって考えていた私も疲れてくると、「日本ではそうなの!そうだからそうなの!」の何ともいいかげんな対応をするようになる。それでも、質問が私に向かって発せられる時にはまだ良いのだが...。

仕事の息抜きと、航空運賃・宿泊・食事込みの格安フリープランで小旅行をした。2日目、宿の夕食は河豚尽し。河豚刺から始まり、フライに鍋と続いたのだが、デービッドは、刺身以外の部分を箸でつまんでは繰り返す。「ねえ、しっぽの部分が多いよね。これもこれもだよ、ね。僕達何匹食べているんだろう。」そして、いきなり「この料理は河豚一匹ですか?」と配膳をしていた若者に聞いてしまった。「はっ、あのう、奥に行って聞いてまいります」と対応は至って丁寧である。暫くして少しばかり格のある担当者が、おもむろにやってきて、膝を付くと「え〜、当店では、虎河豚を使用しておりまして、虎河豚というのは... 本店が料理屋を経営しております都合上、刺身の注文がありますと、他の部分が...」

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