デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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展示会の総括

常に安定していて見通しが立つ...それとも、同じ事の繰り返しで退屈?昨年の暮、恒例展示会第14回の準備を始める時点で私が直面した、中心的課題でした。最も新しい10作品を陳列するといった、初回から変わらず続けている基本形態はそのままにするとして、全体としてもっと面白く有意義なものにするためにはどうしたらいのだろうか?考え抜いた末、貞子と私の行き着いた先は、「デービッドの選択」と「ギャラリートーク」を加える事でした。

デービッドの選択

ひとりの人間が、「本格的版画家」であり、なお且つ「本格的版画蒐集家」である、という事は、経済的な理由から、まずありえない事です。でも私は、明治時代から現代までの作品を中心に、ささやかながらも面白みのある作品の収集を続けてきました。その間私は、常にふたつの事を念頭に置いていたのです。それは、仕事と楽しみです!「仕事」の方は、「摺物アルバム」に用いる原画として、いつも優れた絵をたくさん用意しておかなくてはならないからですが、「楽しみ」の方は説明をするまでもないでしょう。私は、版画を作るだけではなく、版画自体を愛好しているのですから!

今年の展示会に、このコーナーを設けた理由は3つあります。

  • 自分の摺物アルバムに「あらゆる基本形式」を網羅しようとしても、版画の世界を代表する作品をことごとく紹介する、などということは、およそ不可能。他からの作品も入れなくてはならない!
  • 現在でも、程々の価格で美しい版画を購入することが可能であるという事を、多くの人は知らない。美術館のお蔵に仕舞われていない版画は、まだある!
  • 私の作る版画は良く出来ているが、ここまで作れたらいいなあと思う作品を皆さんにお見せしたい。私はこのような版画を常に観察し、たくさんの事を学んでいるのだから。

では、どのような作品を選んだのか?ほんとうに様々です。柱絵、明治時代の雑誌の口絵、戦前の大平洋横断船の献立表、アメリカにいる友人が作った版画、ちりめん本、標準的な浮世絵の復刻版、マッチ箱のラベルのような小さな版画、川瀬巴水の大きな風景。ここに居る蒐集家が魅力的で面白いと思った、というだけのことで、主題のようなものはまったくありません。でも、展示会にいらした方々の反応から推し量ってみると、どうやら良い選択をしていたようです。「こんなに綺麗な版画を見せてくださってありがとう!版画がこんなに面白いなんて、ちっとも知りませんでした」とおっしゃる方がたくさんいらしたからです。

ギャラリートーク

これは、貞子の発案でした。彼女が言い出したのは何年か前の事だったと思いますが、その時にはまだ、この案を聞き入れる段階ではなかったのです。でも今年は、言う事を聞いて良かったようです。日曜日の午後の企画は、参加した方々に楽しんでいただけましたから。話は、「デービッドの選択」に展示した8つの作品に関連して進めました。作品がどんな物であるかという説明を列挙したのではなく、自分が話したい内容や疑問点を述べる手段として、それぞれの作品を使ってみたのです。

論点は、絵を描く時の紙の置方(あるいは絵の見方)が、日本と西洋でどのように違うか、などといった事から、優れた復刻版であっても初摺版に較べると、どんなに円やドルで示される経済的価値が落ちてしまうのか、といった事まで、とても広範囲に亘っていました。実を言えば、8枚の作品のどれかひとつだけを取り上げたとしても、十分ギャラリートークができるほどでしたから、一時間では、ほんの少しずつしか説明することができませんでした。

話を1時間だけに絞ったのは、皆さんが退屈してしまうといけないと考えたからです。私は、勿体ぶった講議形式の解説は大嫌いないので、そうならないよう、できるだけ配慮をしました。ところが、時計を見れば、いつの間にか時は過ぎ、皆様にお茶を飲んで頂く時間になっているではありませんか!後になって出席者から、話は面白かったけれども、質問を受ける時間がもっとあると思っていた、とか、参加者達がもっと知り合える機会があると、意見を交換し合う事ができて良かったのではないか、などの御意見が寄せられました。

来年のトークを計画する際には、こういった助言を参考にして、この企画が参加者相互の間でも影響を与え合い、互いの交流を深めることになるよう配慮したいと考えています。でも、何よりも確かなのは、来年も、私のコレクションから次の出展作品を選び、それらが何故面白いのかを、喜んで皆様に示し説明するだろうということです。(カレンダーに記す方、2004年1月25日・日曜日・午後2時です!)

おやおや、報告のほとんどが、自分の作品の展示に関係ない事で埋まってしまいました!今回はどうだったでしょうか?

最新の作品を展示したのはもちろんで、これらは、来場者からの注目を集めていました。摺物アルバムを始めて4年、なかなか面白い版画が組み合わせられています。どれも好きという方はいらっしゃらないでしょうが、皆さんの好みに合うような作品はたくさんあると思います。

メディアの注目度は、今年も少なかったのですが、きっと収集家の方が展示会の事をお知り合いに話されたのでしょう、「友達の友達」といった形のお客さまが多かったようです。

予約の申し込みは、昨年より好成績で、何年間も続けて展示会にいらしてくださっていた方が、初めて申し込みをなさる、というケースがいくつかあり、とても嬉しく思いました。こういった予約は、「衝動買い」の類いでははないからです。

全体として見ると、満足の行く展示会でした。ただひとつだけ残念なのは、後になって芳名帳を見渡し、そこに収集家の名前を見つけても、いらしたことに気付かず挨拶をしていなかった時です。私の不注意から、お話をする機会を逃してしまったこと、ここにお詫びを申し上げます。来年、このような事がありましたら、どうか私か貞子に話しかけて、私の記憶を呼び起こしてください。では、また来年の1月にお目に掛かりましょう! 

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