デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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ロタ島で...

展示会を終えて、南の島ロタ島へ5日ほど遊んだ。しばしの間冬の寒さを忘れたいこともあったが、こうでもしないとデービッドは仕事から解放されない。いくら仕事が好きとはいえ、朝食を摂りながら60通以上ものメールを処理し、歯を磨き終わればすぐに版画製作に取りかかるという日常から、年に一度くらいは解放されたくなるだろう。追われ追われの日程で、ついに「一息いれたくなったよ」と声が漏れた。

成田空港からは、乗り継ぎを入れて3時間半の何もない島。どこの浜辺に行っても人っこひとりいない。くだけた珊瑚でできた砂浜からは澄んだ水が続き、抜けるような青い視界が180度に広がる。自転車を借りて海岸線に沿って移動すると、公園の奥に小さな入り江を見つけた。魚が泳ぎ、水底が透けて見える。もうこうなると青年デービッドはじいっとしていられない。さっさと服を小枝にかけると素っ裸で海に飛び込んだ。「気持ちがいいよ〜。おいでよ〜。だあれもいないんだよ〜。早く早く!」

確かにその通りと、理屈では分っていても私の体は岩陰に座り込んだまま動けない。双方共に相手の行動を把握しきれないままに数分が過ぎると、やがてデービッドは水遊びに夢中になり、私の方は無心に遊ぶ青年の姿に見とれ始めた。午後の日射しが彼の体に当って反射する、両腕と肩から水しぶきが上がる、眩しい景色の中にこの青年は一瞬にして溶け混んでしまった。時折水から上がると、濡れた長髪に髭もじゃが絡まって、まるでロビンソン・クルーソーみたいだった。

さて、一方は水遊びでこちらは浜遊びとすれば、私も負けていられない。なにか自慢のできる発見をしたいと辺りを見回すと、岩の上にしっぽの長いトカゲがいた。色は辺りの岩とほとんど同じである。そのまま観察を続けていると、さっと近くの葉陰に移動した。背伸びをして追跡していると、まもなく脇腹の方から徐々に緑色に変化しはじめ、いつの間にか全身が周りの葉色と同じに変わってしまった。岩色の時の写真は撮れたのだが、今は高い位置でチビの私にはカメラが届かない!

御想像くださいな、どんなに自慢げに手を振ってロビンソン・クルーソーを陸の方に呼び寄せたか!

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