デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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朝日智雄さん

このコーナーにどなたをお願いするかは、いつも難しいところです。興味深い活動をなさっておられる方があまりにたくさんいらっしゃるので!だからといって、どうすれば...たとえ毎回、3、4人の方を取り上げたとしても、皆様全員をお訪ねすることなどできないのです!でも今月は、「一石二鳥」とすることができました、つまり、収集家のおひとりを紹介すると同時に、私自身の仕事についてもちょっとお話できるからです。

昨年の「摺物アルバム」では、最後の作品に明治時代の口絵を復刻しました。口絵とは、雑誌の折り込み用に作られた版画のことです。これからの摺物アルバムに、もっと口絵を入れていきたいと思っていたことから、そのジャンルに興味をもっていたので、版画店で私にも手の届くような作品を見つけた時には、買い集めていたのです。でも、三島市にお住まいの朝日智雄さんのコレクションの量に比べたら雲泥の差です。彼の目的はすっきりしていて、明治時代のすべての口絵とその資料を集めるということですが、これはかなり完成に近い段階です。ついこの間、彼のコレクションを拝見し、いろいろと版画の話をするためにお宅まで伺ったのですが、彼が次々と運んでくる紙挟みから、目の前に美しい作品の行列を作りだしていくと、もうただただ驚くばかりでした。

他にも口絵の研究をしている人は世界中にいますが、その規模から言うと朝日さんは群を抜いています。この分野における彼のコレクションはとても重要ですから、口絵に関する本や文献が出版されると、たいてい「朝日智雄氏提供による」といった注釈を見つけます

古い浮世絵とは違って、良い口絵はまだ版画店で見かけますから、同じような収集をしたいと考える人には、まだ可能性があるでしょう。でも、朝日さんは、ただ集めるというレベルを遥かに越えていて、どの雑誌のどの号に載っていたのかといった、それぞれの版画の背景にある歴史や、研究に必要と思われる細かな資料などを記述する作業に大変な時間を費やしています。

朝日さんをお訪ねしたのは、このコーナーの為の取材という名目でしたが、実際には.....お宅に着いてものの2分と経たないうちに、口絵がどのように作られたのかといった、重要な議論に深くはまり込んでしまったのです。外が暗くなって私達のお腹がグーグー音を立てていることに気付くまで、止めどなく続いてしまいました。そんな訳ですから、朝日さん御自身について特別なことは、何も記することができなく、ただ、ある食品加工会社を経営していて、地域の国際交流協会の理事をしていらっしゃるということだけになります。奥様の洋子さんは、暫くの間私達と一緒に居て下さったのですが、彼の版画蒐集にはかなり寛大のようでした。意味のないことにお金を費やす事だって考えられるのですからと、夢中になる御主人を嬉しく受け止めているようでした!

私は、最近集めた口絵を入れたファイルを持参していったのですが、その中に、朝日さんのコレクションにないものが数枚ありました。私は、自分が今までたくさんの本や版画、道具を多くの方から「これは貴方が持っていた方がいいですから」と言って譲って頂いていたので、それらは躊躇なく彼にお渡しました。彼の壮大なプロジェクトの完成に少しでも貢献できてとても嬉しく思っています。私の方も手ぶらで戻ってきたわけでなく、朝日さんに、数少ない収集の穴を埋めていただきました!

暫くしたら、というよりも近いうちに、また三島のお宅のあの部屋にお邪魔するでしょう。お訪ねした時の話の中、私達はとても興味深い研究の糸口を見い出したので、当時の素晴らしい版画がどのように作られたかという、現在はまだ謎に包まれている疑問を解く作業に貢献できるようなのです。

おっと、忘れてはいけませんね。朝日さん、私の版画を集め続けてくださってありがとうございます。もうすでに、有り余る程の「本物」が山のように机の上に積まれているのに。素敵なお仲間に加えていただき、嬉しいです!

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