デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

41号から最新号まで

1号から40号まで



Categories:

先客

デービッドが居を移したのは凍えるような一月、初めての春が巡ってくると、青梅の自然は訪ねる者の心を浮き浮きさせるほど目まぐるしく移り変わる。デービッドの方も、その変化を逐一説明しようと、ミツバツツジの群落や勝手に「桜御殿」と名付けたよそのお庭へと私を散歩に誘う。

自然を相手に彼の遊び友達も次々増えているようで、先日のはアワムシだった。作業台のすぐ前まで伸びているユキヤナギの枝に、白い泡がくっついている。「ねえ、この虫いつになったら泡の中から出てくるんだろう。僕、何日も観察しているんだけど。もう卵からかえっているのに。」と報告を怠らない。ちょいと顔や尻を出してはまた泡の中に潜り込み、泡の量が減らないという。さもありなん、「泡の中が住処だもの」と説明すれば、半信半疑で新顔の友人をためつすがめつ飽きもせずに覗いている。(このアワムシ、その一週間後にはいなくなったが)

近頃、この「せせらぎスタジオ」にはいつも先客がいる。彼女は黒ずくめで足下だけ白で決めているなかなかのおしゃれ者。デービッドは、食事まではしないときっぱり言うが、なかなか睦まじくやっているようだ。彼にすり寄ったり、仕事の手を休めず相手をしてあげなければ、間近で昼寝までしていくとか。

くだんの彼女は、私にもなかなか愛想がいいのだが、私が訪ねていくと、もうお別れの時だと察する。その訳は、彼女がいると私にアレルギー反応が起きてくしゃみを連発、目も真っ赤になってしまうから。

玄関から外に出されても、彼女は簡単に諦めず必ず走って和室の前に回ってくる。そして、うらめしそうに、ミャァ〜ミャァ〜と愛くるしい声で泣くのである。

コメントする