デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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展示会報告

ここ数年は、ギャラリーでの展示方法をどのようにしたものか、ずいぶんと考え倦ねました。「百人一首版画シリーズ」の時は、あまり選択肢がなかったのです。展示する版画の数が多くて、壁面いっぱいに全部を張り付けるしかなかったからです。うまく展示されているかどうか、とういうことは二の次でした。新たに「摺物アルバム」を始める前、最初の見本を紹介する時には、ギャラリーの奧を囲って特別の部屋を作り、その中で柔らかな明かりの元に置かれた版画は、とても美しく見えました。

そして、第一回目の摺物アルバムの展示会を2000年の1月に控えた時には、10枚の版画全部がその時と同じ照明で見られるよう、障子をずらりと1列に並べて、その前に版画を置きました。それで、効果の程は?ええ、効果は抜群でした。でも、ちょっと欠点もでてきたのです。作品毎に書いてきたエッセイは、今までもずうっと展示してきましたから、今回も、それを印刷したものを台紙に貼って、版画の隣に展示したのです。ところが、置いた机の高さが低すぎ、おまけに照明を薄暗くしてあったために、読みづらくなってしまったのです。「背中が痛くなったよ!」とか「これじゃあ良く見えないなあ!」などと、お客様から苦情が出てしまいました。一枚だけなら、とても効果的だった展示方法ですが、それを全部にあてはめると、うまくいかなかったわけです。

それで今年は、なにか別の方法を見つけなければならなかったのです。家を買ったばかりで経済的に苦しく、時間もぎりぎりでしたが、なんとかしなくてはなりませんでした。そこで思い出したのが1年前のことでした。あるインテリアデザインの会社が、私の作品を展示する企画をした時の事です。その展示方法は抜群にいいもので、作品を屏風のように角度のついたパネルに貼って、その真上からライトを照らすというやり方だったのです。これは、版画を壁にかけて明るい光を当てるという、私がもっとも嫌っていたやり方だったのですが、光線が版画に直接当たると、とても効果的だったのです。版画の面にある凹凸も色もはっきり見え、和紙の感触も手に取るようにわかりました。

私は、自分の展示会にもこの方法を採用することにしたのです。貞子さんと一緒に手順を考え、日用大工店に行って材料を仕入れてきました。ベニヤ板、壁紙、スポットライト、などなど、必要と思われるものすべてをです。この時は、すでに引っ越しがすんでいて、家財道具から仕事に関係するものまで、すべてが新居に移してあったので、羽村のアパートは空っぽでした。ですから、私達は数日間、がらんどうのスペースいっぱいに道具を広げて工作ができたのです。パネルは、分解したり組み立てたりできる運搬可能なものにしました。作っているあいだに、いくつか困ったことにもぶつかったのですが、なんとか解決の道を見つけて、最終的に展示場に設置したときにはとても満足でした。版画の美しさがとても良く見えたからです。

それで、お客様はこれが気に入った? ええ、反応は良いようでした。前回を知っていた人達の多くは、新しい照明の仕方に驚いていましたが、文句を言う人はいませんでした。版画がはっきりと見えて、とても好評でした。

来場者の数ですが、こちらは前回と較べると少なく、芳名帳が一冊で済んでしまうほどでした(昨年は2册で、百人一首の最後の年などは5册でしたから!)。これは、マスコミがあまり取り上げなかったせいです。「摺物アルバム」というテーマは、「百人一首」にくらべると、影響力が弱いのだということがよく分かりました。私が今まで注目されてきたのは、明らかに自分の選んだ題材と、十年間で完成させるという企画のためで、これがマスコミの関心を引いたのだと思います。「摺物を年に10枚作って、500枚を目指す50年プロジェト!」なんてぶちあげましょうか!そうしたら、マスコミがもっと注目してくれるかも?

もちろんそんなことはしませんよ。展示会に来る人が少なくても注文はありましたし、この仕事をまた1年間続けていけそうですし....。「摺物アルバム」を始めた時には、かかる費用を改めて計算し直して、百人一首の時とは違う形に計画しました。百人一首の時、版画は一枚当たり一万円で、1作品につき100枚ずつ摺りました。収支決算は、なんとかというところだったでしょうか(シリーズの後の方のことですが)。一方、摺物の方では、価格を低く押さえたかったので6,000円とし、摺る枚数を200枚に増やしました。「摺物」は全般に色数が多く、摺る作業は以前にくらべるとグンと増えています。加えて、生活していくためには収集家の数を増やさなくてはならないといこともありますが、摺物の価格は、たいていの人にとって、より手の届きやすいものになりました。

こうして2年が過ぎた今、収集家の数は目標の200人に到達したでしょうか。いいえ、まだです。第2アルバムが113人でした(その方達の名前はアルバムの最後のページに印刷してあります)。これでは生活していけませんが、今のところはまだ百人一首シリーズの第2摺りをしているので、家計の方はなんとか...

さしあたっての問題は、色数も摺る枚数も増え、しかも、ふたつのシリーズを継続している、という状況にあるために、予定が遅れ遅れになってしまっているということです(収集家の方は良く御存じでしょうが)。今年の展示会では10枚目が間に合わなかったほどでした。これをどうしたものか、今のところ解決策は見当たらず、なんとか皆様に我慢して頂くしかないのです。

高級なレストランに行くと、メニューに書いてあるでしょう?「美味しい料理は時間がかかります....」ってね。

楽しいお食事を!(Bon appetit!)

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