デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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ハリファックスから羽村へ

お好み焼きを初めて食べてみて、私は日本食に興味をもち、町にある他の日本食のレストランを探し始めました。当時のトロントでは(もしかしたら今でも)、日本食が大変なブームになっており、電話帳を繰ってみると、ちっぽけなラーメン屋さんから高級ホテルのレストランまで、40軒くらいの日本食レストランが見つかりました。それからの数ヶ月というもの、私はそれらをひとつひとつ試してみたのです!そしてすぐに日本食の様々な種類や味を覚え、猛烈にいろいろなものを試した後は、いくつかの好みの店を見つけ、ほとんど毎日のようにそれらの店へ通うようになりました。

日本食は私の好みによく合いました。私は大食漢ではなく、多くの西洋人とは違って、比較的少量の食べ物でも物足りないということがありませんでした。また、イギリスでの子供時代、家庭では香辛料のきつくない食べ物で育ったので、一般的に言ってくせのない味の日本料理に、親しみがもてたのです。

そして私が魅力を感じたのは食べ物だけではありませんでした。たいていのレストランでは若い日本人女性をウエイトレスとして雇っていました。私のような客を惹きつけようとしていたのでしょう。そして私はその策略にまんまとはまってしまいました!あるひとりのウエイトレスが特に気に入って、そのレストランが私の「一番のお気に入り」になりました。しばらくして彼女が別のレストランに移ると、私の「お気に入りレストラン」も変わりました。どのテーブルが彼女の担当になっているのかを覚えて、必ずそこに座るようにしました。前の恋人と別れて数年が経っており、新しい出会いを求める気持ちがあったのです。そこで、どうなったでしょうか?お話するのはちょっと恥ずかしい気がします...

彼女をショーに誘ってみようと考えて、2枚のチケットを手に入れ、ある日それをポケットに入れて、彼女のいるレストランに食事に出かけました。行ったのはかなり遅い時間で、ちょうど彼女の仕事が終わる頃に私も食べ終わるように、というつもりでした。仕事の邪魔をしたくなかったので、テーブルで話し掛けることはせず、彼女が出てくるまでレストランの外で待っていました、どう言うかを何度も練習しながら。やがてドアが開き彼女が出てきました...他のウエイトレス達と一緒に歩きながら!

そんなことは全然予想していなかったので、私はちょっとうろたえてしまい、さっと反対方向へ歩いていってしまったのです。なんてまぬけなんでしょう!27歳、職場ではマネージャーの仕事をしていながら、女性をデートに誘うこともできないくらい内気だったのです...チケットは無駄になり、私は再度挑戦することはありませんでした。しばらく後に、彼女はまた別のレストランに移りましたが、今度は私はついていきませんでした。「今度の焼肉レストランってあんまり好きじゃないんだよね...」と言って...そう、そうだったのです!

そういう面ではみじめな失敗をしましたが、その他の面ではとてもうまくいっていました。私にはうちこめるものがありました。昼間の仕事、そしてそれが終わった後は、コンピューターの勉強。どちらにもいろいろおもしろいことがあって夢中になったのです。

そしてこの長い(長すぎる?)「ハリファックスから羽村へ」の話も、ようやく、羽村への道が見えてきました。デービッドは日本の版画に初めて遭遇するのです...

トロントの町を何気なく歩いていて、日本の木版画展をやっているギャラリーに入って見ようと思った日からもう20年以上が経っていますが、私は決してあの日を忘れません。それはトロントの中でも流行の先端を行くヨークヴィルにある小さな場所で、「スチュアート・ジャクソン・ギャラリー」として知られていました。私は版画のことなど何も知らなかったし、「芸術」になんてまったく興味はありませんでした。私は日本食レストランに食事にでかける途中で、ただ掲示板にある「Japanese」という文字に惹かれただけなのです。

その展示会でどんな版画があったのかはもう覚えていません。絵に何が描かれていたかよりも、壁にかかっていた「物そのもの」に強烈な衝撃を受けました。ジャクソン氏はこれらの版画をどういうふうに展示すべきかを心得ていたのです。優しい、ななめの光のもとで、それらは実に素晴らしく見えました。私は近寄ってよく見ました。 柔らかな色合い、みごとな浮き出し模様...「どうやったらこんなことができるんだ?」...私は「一目惚れ」するタイプの人間ではありません(どうかな?)し、あの日ギャラリーから出てきて木版画家になろうと決めた、と言ったら言い過ぎになってしまうでしょう。しかし、この短い訪問がその種を植え付けることになったのは間違いありません。

そしてもちろん、この話を読んでくださっている方ならもうよくおわかりの通り、デービッドが何かに興味を持ったということは、それを自分でやってみようとした、ということです。実際にとりかかるまでに1年くらいかかることになってしまいましたが...そう、まずは例によって、本屋さんに行って何かないか見ることから始めたのです......

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