デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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展示会の総括

昨年は「百人一首版画シリーズ」の完成展示会でしたが、おいでになった方は御存じのように、ちょっと変わった展示方法を試してみました。ギャラリーの明るい照明を避ける一隅にちょっとした小部屋を作り、斜めに差し込む柔らかな光で版画を見られるように工夫してみたのです。その後の一年間は、その小部屋で見た版画の美しさが忘れられず、次の展示会で会場全体をそんな雰囲気にするためにはどうしたものかと、ずうっと考え続けてきました。  そして、新しく始めた「摺物アルバム」の第一回展示会の準備に向けて具体策を考えたところ...。手間も時間もずいぶんとかかりそうだし、費用もかさみそうだったのです。でも、やってみる価値はあると判断して、結局実行に移すことにしました。

今までの会場では、壁に掛けられた版画が、明るい照明を浴びていました。でも今回は、奥に向かってずらりと並べられた障子越しに、柔らかな明かりが漏れているだけの薄暗い空間になっていたのです。

「これは展示場かしら...?それとも小料理屋かしら...?」でも、いったん会場内に入ってしまい展示物の方に近付くと、そこに置かれたこんな説明が目に入ったのです。「江戸時代の人達は、どのような明かりで版画をみたのでしょうか。ここに再現してみました」

初回「摺物アルバム」の作品十枚が、台紙に載せられただけの状態で、障子の前に設置された台の上に置かれています。額に入れてあるわけでも、ガラスをはめてあるわけでもなく、照明も当たっていません。近付くと、もう一枚、こんな説明が書かれていました。「どうぞお手にとって御覧下さい」来場の方達は指示に従っていました。版画と間近に接して、その柔らかな色合や表面の凹凸を正しい状態で見て楽しんでいたのです。私は、これを見てとても満足でした。

障子の列が終わったところは部屋の片隅で、わたしはそこに天井からの照明を当てて摺台を用意しました。そして、例年のように一番新しい年賀状を使って実演をしたのです。今年の賀状は、最後の摺りに色を使わない空摺となっていたので、とても実演向きでした。バレンでこすり終えて紙を版木から剥がして表に返すと、観客からはきまって感動のため息が洩れてきました。

昨年は百人一首シリーズの完成という特別な展示会でしたから、それに比べると今年は静かで落ち着いた雰囲気でした。それでも、マスコミがとても良く紹介をしてくれたので、予想していたよりはずっと多くの方々が来てくださったのです。次のアルバムに選んだ作品の内容は、前回と同様に表示しませんでした。予約をなさったお客様に、一枚ずつ届くのを楽しみにしていただきたいからです。そう、いつも「のぞきっこなし」です!でもこれは、皆さんに「私を信じて下さい。良い作品を作りますから。」とお願いすることでもあって、昨年同様このやり方に難色を示す人もいました。ともあれ、初回の摺物アルバムはとても評判が良く、また、来場された方々からの第二集への予約も結構あって、大変うれしく思っております。 

これでまた、充実した一年が過ぎました。このニュースレターが皆様のお手元に届く頃、私はもう第二集に取り組んでいるはずです。

来年の展示場は、もちろん、すでに予約済み。制限時間が刻々と追いかけてきます!さあ、しごと、しごと!

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